りつこの読書と落語メモ

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牛 築路

牛 築路 (岩波現代文庫)

牛 築路 (岩波現代文庫)

★★★★

中国の寒村での庶民の生と死を凝視し、暴力という秘儀体験と生命のはかなさを饒舌な文体で濃密に描く。荒涼たる大地ではいつくばうように生きる人々。自らが何者かを知らず、自らの居場所を知らず、自らの行く手を知らない人々にとっての幻と希望とは何か。現代中国文学の旗手が文革期農村を描いた小説二篇は、「マジックリアリズム」と呼ばれる著者の作品世界を知る上で恰好な作品である。本邦初訳。

文化大革命中の農村を描いた2作が収められている。
牛の去勢を描いた「牛」と道路工事に徴収されたならず者の破滅を描いた「築路」。
どちらも暴力に満ちていて嘘や欺瞞だらけで貧しくて飢えていて希望などどこにもない。なのに圧倒的な生命力に溢れていてユーモラスでさえある。

「牛」では、暴れ牛の去勢の顛末が生々しく描かれていて、読んでいるだけで血のにおいがしてくるようで目を背けたくなるほど。
だけど主人公の少年も老人も「それ」を食べたくて奪い合う。
この逞しさはなんなんだ。悲惨なのにかわいそうじゃない。嘘ばかりついてだましあって殴りあうのにどこかけろっとしている。

「築路」では、道路工事に徴収されたならず者たちの破滅が描かれているのだが、ひときわ印象的なのが主人公が恋をする豆腐売りの白蕎麦という女性である。
艶っぽくてしたたかで逞しい。すさまじいほどの逞しさで、悲惨な物語なのになんだかすかっとする。

すごすぎるよ、莫言。すごすぎるよ、中国。
圧倒的な物語を読みたければ、中国か南米の小説を読めばいいのだな…。