りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

忘れられた花園

忘れられた花園 上

忘れられた花園 上

忘れられた花園 下

忘れられた花園 下

★★★★★

1913年オーストラリアの港に着いたロンドンからの船。すべての乗客が去った後、小さなトランクとともにたったひとり取り残されていた少女。トランクの中には、お伽噺の本が一冊。名前すら語らぬ身元不明のこの少女をオーストラリア人夫婦が引き取り、ネルと名付けて育て上げる。そして21歳の誕生日に、彼女にその事実を告げた。ネルは、その日から過去の虜となった…。時は移り、2005年、オーストラリア、ブリスベンで年老いたネルを看取った孫娘、カサンドラは、ネルが自分にイギリス、コーンウォールにあるコテージを遺してくれたという思いも寄らぬ事実を知らされる。なぜそのコテージはカサンドラに遺されたのか?ネルとはいったい誰だったのか?茨の迷路の先に封印され忘れられた花園のあるコテージはカサンドラに何を語るのか?サンデー・タイムズ・ベストセラー第1位。Amazon.comベストブック。オーストラリアABIA年間最優秀小説賞受賞。

もうどこからどこまでも好みだった。 ロンドンからの船に取り残された少女。出生の秘密。残された秘密のコテージ。と、イギリス好き、英文学好き、ちょいミスちょいロマンス好きにはたまらないこの設定。

船に取り残されたネルはいったい誰だったのか、という大きな謎を軸に、ネルの視点、ネルの孫カサンドラの視点、そして「お話の叔母さま」イライザの視点、と3人の女性の物語が並行して語られる。 それぞれが自分の未来や過去を理解できずにただ精一杯生きている中で、読者だけが彼らのすべてを俯瞰して見ることが出来る。当たり前なんだけど、それがとてつもなく「幸福」に思える…。これこそが読書の悦びなのではないだろうか。

本当の親なんかわからなくてもいいじゃないか。 産みの親より、育ての親だよ。過去より未来だよ。 人生をかけて自分の過去を探すネルにはそんな言葉をかけたくなる。 でも自分自身を見失い、結婚した相手のことも自分が産んだ娘のこともきちんと愛することができなかったネルが、孫のカサンドラには共感し無償の愛を与えたことが、とても素敵だ。 過去を探しながら、気がつくと自分の未来を見つけていた、というところが、またとても素敵だ。

とにかくなにからなにまで私にはツボだった。 出会えてよかった。ブラボー。