りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

砂上のファンファーレ

砂上のファンファーレ

砂上のファンファーレ

★★★

いつの間にか蝕まれていた一家の理想。誰もがそれに気づかないふりをしていた―。家族って何だ?次々と襲い掛かる、それぞれの現実。

2人の息子はどうにか巣立っていったものの、サラリーマンを辞めて独立した夫の仕事は軌道に乗らず家のローンも残り消費者金融から借りたお金で自転車操業の日々。
最近、物忘れが酷くなって、まさか…と思いながらも、ネットで「アルツハイマー」と検索し、そこに書かれていることに一喜一憂してしまう。
こんな不安を夫には打ち明けられない。しっかり者の長男に相談するか?いや、能天気で明るい次男の方がいいか?

物語は、母、長男、次男、父、と順番にそれぞれの視点から語られる。
最初の母の章では、膨らんでいく借金とそれを打ち明けたり相談する相手のいない母の切羽詰った状況が語られて、息が苦しくなるような緊迫感だ。
最近の自分の記憶力の欠落に、「もしや…」と不安になりながらも、誰に相談することもできない。
まさかまさかと思っているうちに、その言動は常軌を逸し、ついには病院に連れて行かれてしまい…。

そんな壊れていく母を目の当たりにした長男の苦悩が次には語られ、自分の両親を軽蔑し距離を置く妻。そんな妻に本音をいえない長男。
第一子を妊娠中の妻をいたわらなければ、毅然としなければと思いながらも、徐々に生まれてくる違和感。
実家の苦境とそれとは無縁でいたい妻との間に入り、板ばさみ状態の長男。
そんな中、一度上司に連れて行かれたキャバクラのキャバ嬢からメールが届き、ついついふらっと…。

第一章、二章を読んだ時点では、いったいこの家族はどうなってしまうんだ?こんなにも八方塞だったらもう打つ手はないのでは?と暗澹たる気持ちになっていたのだが。
第三章、次男の回になると、物語の雰囲気は一転する。

フリーターでいまだに母に金の無心をするようなダメダメな次男坊。
母の病状を病院に見放されたようなことを言われた次男は、「絶対もっと熱意を持ったすげぇ医者がいるはず」と思い、ネットで調べては病院を訪ねる。
何度目かで当たった病院で熱意を持った医者に出会い、その医者の知り合いを紹介され、母をその病院に転院させて…。

最初はダメダメに思えたこの次男が、ものすごくいい味を出していて、力を発揮するのである。
ふにゃけたオヤジに喝をいれ、しっかり者だけどネガティヴな長男から上手にお金を引き出し、離れ離れだった家族をぎゅっと1つに結びつける。
ここらへんから、八方塞だった状況が、どんどん好転していき、そして…。

面白くてお昼休みにイッキ読み。
途中、ぐっとくる言葉やシーンがあって何度かお店のペーパータオルで涙を拭きつつ、読みきってしまった。
読み終わった時は、いいじゃん!これ!と思ったのだが、しばらく時間がたったら、なんか都合よすぎじゃねぇ?そんなふうにはいかなくねぇ?という気持ちになってきた。
前半にばーん!と広げた風呂敷を、さささっと小さく折りたたまれて、きれいにしまわれちゃった、ような印象なんだなぁ…。

あとにあんまり残らなかったというところで★3つなんだけど、でも面白かったし嫌いじゃないので他の作品も読んでみようと思っている。