りつこの読書と落語メモ

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孤独の部屋 (20世紀イギリス小説個性派セレクション 4)

孤独の部屋 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)

孤独の部屋 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)

★★★★

第二次世界大戦下のイギリスの田舎町。
ロンドンの出版社に勤める39歳のミス・ローチは、空襲に遭いこの田舎町に疎開している。
彼女が住んでいる下宿屋の住人は冴えない老人ばかり。中でも威張り屋のスウェイツ氏はローチを目の敵にして、毎日口撃してくる。
退屈な生活の中、下宿屋にアメリカ人のパイク中尉が入ってきて、ローチにアタックしてくる。
さらに、ローチの知り合いであるドイツ女性のヴィッキーがこの下宿屋に入ってきて、退屈だった生活に波風が立ち始める…。

いやぁ、面白かった〜。
すごく地味な話なんだけど、ものすごくスリリングでリアルなのだ。
自分の仕事やほんのちょっとの生活の潤いを大事にして、ささやかに生真面目に暮らしているローチは、聡明で善意に満ちた女性だ。
威張り屋のスウェイツ氏の悪意を必死にかわそうとしながらも、傷ついてしまう姿には共感を覚えずにはいられない。

しかしそのローチが、パイク中尉が自分に言い寄ってくることに少しウキウキし、同情から下宿屋に誘っていたドイツ人のヴィッキーが実際に引越ししてきたあたりから、徐々に精神の均衡を崩していく。
ほんとに些細なことなんだけど、違和感を感じたり不愉快に思ったりしながらも、「いや、こんなふうに思ってはいかん」「自分がこう思ってしまうのは、こうだからなのだ」と一生懸命軌道修正しようとするのが、自分にもこういう経験があるから「わかるわかる」といちいちリアルで読んでいてすごくスリリングなのだ。

親しい(つもりでいた)誰かのことが突然理解できない「敵」に思える瞬間。
化け物なのは相手なのか自分なのか。
最初は自分の心持が悪いのだと思うのだが、相手を「敵」と見なした瞬間に、もう嫌悪感しかないような状態になってしまい、もう二度と修復不可能になってしまう。
そういう中で、自分の持っている優越感や劣等感、そして差別意識があらわになっていくのだ。

いやぁ、すごい小説だよ、これ。
1947年の作品だけど、全く古びていない。
素晴らしい小説というのは、普遍性があるのだなぁ、とつくづく思う。