小暮写真館
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/05/14
- メディア: 単行本
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勝手な想像だけど、宮部さんはきっともう人間の悪意を書くのが嫌になっちゃったんだろうな、と思う。
「火車」や「理由」にはまだ救いがあったけど、「模倣犯」には救いがなかったように思う。
犯人の悪意がもう酷過ぎて一つも共感できなかったし、それだけに話題になるような残虐な事件の犯人もきっとこんなだったんだろうなと思うとものすごくリアルで、膝から力が抜けるような後味の悪さが残った。
続く「楽園」は宮部が「模倣犯」に落とし前をつけたくて書いたのだろうな、とこれまた私は勝手な想像をしていたのだけれど、そしてこれはとても見事な作品であると私は思ったし、宮部さんには辛くてもこういう作品を書き続けてほしいと感想を書いた。
そして久しぶりの新作であるこの小説を読んで、ああ、宮部さんは当分はこういう小説を書きたいのかもな、と思った。
もう会えないなんて言うなよ。あなたは思い出す。どれだけ小説を求めていたか。ようこそ、小暮写眞館へ。3年ぶり現代エンターテインメント。
この小説には極悪な登場人物は出てこない。
辛い出来事やトラウマや傷つけあいはあるけれど、もしかすると自分もそういう行動をとってしまうかもしれない、と理解をすることはできる。
とにかく主人公の花ちゃんがとてもいい。
ぱっとしないけど思いやりがあって不器用であちこちゴツンゴツンとぶつかりながらも成長して前に進んでいる。
そして花ちゃんの家族。酔狂なお父さんも、傷を抱えながらもお父さんと寄り添うお母さんも、生意気で大人びているけどやっぱり子どもな弟もみんな愛すべき人物だ。
友だちの店子もちょっとイイ感じになりかけたコゲパンも明るい部分と暗い部分を持っていて魅力的だ。
そして不動産屋のおじさんと自傷癖のある坂本さん。この人たちが物語に厚みを与えている。
10年前に読んだらもしかすると「ちょっとあますぎ」と思ったかもしれないけど、今の私にはちょうどよかった。
宮部さんはこういう作品を書いていけばいいんじゃないかなー。
人間の悪意を元気よく書く若い作家(湊かなえとか…)は今たっくさんいるんだから。
と言いながら、また「火車」みたいな小説も書いてほしい、とも思うのだった。