りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

木槿の咲く庭

木槿の咲く庭

木槿の咲く庭

★★★★★

好奇心いっぱいで家族思いの10歳の妹スンヒィと、工作と飛行機が大好きで正義感の強い13歳の兄テヨル。日本統治下の朝鮮で、ありったけの知恵と勇気で生きた兄妹の、5年間の物語。

日本が戦争をしていた頃、フツウの人々がどんなふうに戦争に巻き込まれていったかという小説は、今までに何冊も読んでいる。
でも日本から統治された側の小説は初めて読んだかもしれない。
その事実に唖然…。

個人で見るとわかり合えるところもたくさんあるのに、「国」で見ると、ただただ残酷で不条理と感じることが結構ある。
この物語に出てくる「日本」はまさにそうだ。
こんなことをもう二度と繰り返してほしくない。そして二度と繰り返したくない。 そう思った。

この小説の魅力は、10歳の妹スンヒィと13歳の兄テヨル、2人の視点から描かれているところ。
圧倒的な支配に対して子どもは無力な存在ではあるけれど、それでも希望を失わない心とか正しいことを見極めようとする力とか、それは純粋な分だけ大人にはない力を持っている。

好奇心が旺盛でお茶目で聡明なスンヒィは、家族を慈愛に満ちたまなざしで見つめ、立場の違う友人(親が日本人だったり親日家だったりする)をきちんと個人としてとらえて大切にする。
幼さゆえに犯してしまった失敗で癒えることのない傷を抱きながらも、その中で精一杯生き抜こうとする姿には、何度も泣かされた…。

反日行為で追われる身になった叔父を慕っていたテヨルは、叔父を、そして家族を救おうと大きな決意をする。
飛行機に憧れる幼さを持ちながらも、自分が犠牲になってでも家族を守ろうとするテヨル。自分の本心を妹だけに打ち明けるシーンには涙…。

不自由な中でも、もてるだけの勇気を振り絞って、小さな幸せを噛みしめながら懸命に暮らしていく。そういう戦い方もあるのだ、と教えられた気がする。