りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

待ち暮らし

待ち暮らし (ハヤカワ・ノヴェルズ)

待ち暮らし (ハヤカワ・ノヴェルズ)

★★★★★

18年間求めてきた離婚がついに成立し、孔林(クオン・リン)は愛人と新生活を始めるが…。思わぬことから、待ち続けた歳月の意味に愕然とする男の焦燥を巧みに描く。全米図書賞、PEN/フォークナー賞受賞作。

読みたい本リストの最初の方にメモしておいて、なかなか一歩が踏み出せずにいて、ようやく読んだ。
これは面白かった!読んで良かった〜。

軍医の孔林は故郷を離れた病院に勤めていて、家には夏休みにしか戻らず、結婚して以来妻の淑玉とはずっと別居生活だ。
もともと妻の淑玉は、年老いた両親が自分たちの面倒を見させるために連れてきた嫁で、不器量で纏足をしている妻のことを孔林は愛することができず、恥ずかしいからと人前に出すこともしない。
そのうち病院の看護婦マンナが孔林に想いを抱くようになり、若くて美しいマンナに惹かれていく孔林。

妻の淑玉は、孔林の両親を看取り、一人娘を大切に育て、近所の人たちとも仲良く暮らし、畑を耕し仕送りのお金を大切に貯金し、毎年夏にしか帰ってこない夫を文句も言わずに待っている。
孔林は淑玉と離婚しマンナと結婚生活を始めれば幸せになれると思い、夏に帰るたびに淑玉と離婚をしようとするのだがそれができない。
離婚しようとしていざ裁判所に行くと淑玉の弟が妨害してきたり、「離婚してくれ」と言われ「いいですよ」と答えていた淑玉が最後の最後に悲嘆の涙にくれてしまったりして、田舎の人たちからは「こんなに良い嫁を捨てようとするなんて」と非難される。
孔林自身も、善良な淑玉のことを邪険にはできず(基本的に邪険にしてはいるけど)、無理矢理離婚することができないのだ。

そうして18年がたち、ようやく淑玉と離婚しマンナと再婚した孔林。
長い年月はマンナの内面と肉体を歪めてしまい、孔林はようやく自分がしてきたこと(しなかったこと)の残酷さに気付くのだ。

いやもうね、孔林は酷いんだよね。妻の淑玉に対しても愛人のマンナに対しても。

妻のことは「今時纏足なんかしちゃってさー恥ずかしいよなぁ。」と思っているのだ。そして顔がおばさんくさいとか頭の回転が良くないとか思って、年に1回しか家に帰らない。
だけど子どもだけは作って、その娘のことはかわいいなぁと思っている。
淑玉のことも愛情は抱けないといいながらも、ちょっとの仕送りも大切に貯金して年に一度帰ってきた自分にご馳走を用意して近所の人や自分の兄とも仲良くしている姿にホロリとしたり安らぎを感じたりして、「もしかして同居していたらいい夫婦になれたのかもしれないなぁ」なんてことも思う。

マンナに対しては、若くてきれいで生き生きしている彼女に惹かれ、彼女から求愛されて悪い気はしなくて、だけどもちろん不倫なんかしたら病院にいられなくなって仕事も失うから、あくまでもプラトニックで通すことを決めていて、マンナが迫ってきてもぐっと耐えるのだ。それでマンナが傷つくと、彼女の人生を台無しにしているという自責の念に駆られ、他の男を紹介しようとしたりして、でもやっぱりそれがだめになって彼女が戻ってくるとほっとしたりして。

酷いんだけど、優しいところもあって、なんか憎みきれないのだ。
だけど、毎年帰ってくるたびに「離婚したい」と言われる淑玉もかわいそうだし、いつになったら奥さんと離婚してくれる?と思いながら若さを失っていき、周りからも白い目で見られるマンナも本当にかわいそうなのだ。
不倫を長く続けちゃいかんよ、ほんとに…。

いやしかしね、この小説に関しては、もうこのうだうだもぐじぐじもムキーーも全て含めて、とにかく素晴らしい。
劇的なストーリーが展開しなくても、魅力たっぷりな登場人物が走り回らなくても、面白い小説というのは確かにあるのだ。
どちらかといえば陰鬱な話なのに、漂うユーモアや人情や非情や国民性やそのなにもかもがもうどうにもこうにもいいのだ!あーーこのすばらしさを全然伝えれらない自分がもどかしいんだけど。
読書の悦びに十分浸れる本だった。素晴らしい小説だった。ブラボー。