田舎の紳士服店のモデルの妻
- 作者: 宮下奈都
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/11
- メディア: 単行本
- クリック: 31回
- この商品を含むブログ (62件) を見る
田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、子育てに迷い、恋に胸騒がせる。じんわりと胸にしみてゆく、愛おしい「普通の私」の物語。
今まで読んできた宮下作品と比べるとちょっと鬱々とした内容。だけどそれだけで終わらないところが良いなぁ。
鬱病になって会社を辞めてきた夫が田舎に帰ると言う。
私には何の相談もなしかよ?とか、田舎に帰ってどうすんのよ?とか、そんな言葉をぐっと胸にしまいこみ、幼い子ども2人を連れて夫に付いていく梨々子。
美人でちやほやされることに慣れていてプライドが高い梨々子は、決して共感できる主人公ではないのだけれど、読んでいると「なんかすごくよくわかる」のだ。
自分なんかにちゃんと子どもを育てられるのか。
自分の鬱々とした気持ちが子どもに悪影響を与えているのではないか。
夫のことを自分は何もわかってなかったのではないか。そして自分も何一つ理解されていないのではないか。
その閉塞感。孤独感。
人の言動を悪意に捉えだすと、底知れなくてどんどんドツボにはまっていく感じ。
でもその中でもがいたり立ち止まったりしながら、あるときふと気付く。
そうか、結局は自分の感じ方次第なのだな、と。
満たされなかったり孤独だったり心もとなかったりするけど、子どもの曇りのない声に救われたり、方言に心和んだりしながら、徐々に自分の足元を固めていくのだ。
状況は何も変わってないけどハッピー。
私もそう言えるようになりたい。そう言いながら笑って生きていかなくちゃ。