りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

巡礼

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★★★★★

いまはひとりゴミ屋敷に暮らし、周囲の住人たちの非難の目にさらされる老いた男。戦時下に少年時代をすごし、敗戦後、豊かさに向けてひた走る日本を、ただ生真面目に生きてきた男は、いつ、なぜ、家族も道も、失ったのか―。その孤独な魂を鎮魂の光のなかに描きだす圧倒的長篇。

描かれる人々が、ほとんど自分の考えというものを持たず、また自分の気持ちを見つめたりもせず、ただただ時代に流されていっているのは、以前読んだ「橋」と同じ。 でも「橋」では描かれる人たちに対しては嫌悪感しか抱けなかったのだが、これは違った。

ただ真面目に生きていた男がなぜゴミ屋敷の主になってしまったのか。
前半はゴミ屋敷の隣に住み心身症になってしまった吉田夫人の目線で読んでいたので、「なんでこんなことを…」という嫌悪感や怒りを抱きながら読んでいたのだが、忠市の生い立ちを読むにつれて「わからなくもないなぁ」という気持ちになってきた。

最初の妻から離婚を言い渡され、二人目の妻には逃げられた忠市の葛藤は一切書かれない。
だけど、弟修次の妻弘子にあやしげな行動をとったり、母すみが亡くなって道端に落ちていて「カタカタ」を拾って帰ってきたり、という描写から、忠市の寂しさや空疎さが伝わってくる。

空虚な登場人物たちの中で、弟修次の存在が救いだった。
全てがモノクロな中で、彼だけがちゃんと色がついている。そんな印象だ。
お遍路の旅は、忠市を見捨てた修次の償いでもあり、全てのことから目をそむけ続けた忠市がようやく自分の人生を見つめなおす旅でもあったのだと思う。 最後まで読んでタイトルの意味がわかり、救いも感じられる。そこがとても良かった。