りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ばかもの

ばかもの

ばかもの

★★★★

前から読んでみようと思ってメモしていて、ふと思い立って読んでみたら、自分のまわりでこの本を読んでいる人が何名かいて、うおおーーなんでこのタイミングで?!シンクロしすぎやろ!と驚いたんだけど、最近文庫化されて映画化もされたところなんだね。知らなかった!

気ままな大学生と、強気な年上の女。かつての無邪気な恋人たちは、気づけばそれぞれに、取り返しのつかない喪失の中にいた。すべてを失い、行き場をなくした二人が見つけた、ふるえるような愛。生きること、愛することの、激しい痛み。そして官能的なまでの喜び―。絶望の果てに響く、愛しい愚か者たちの声を鮮烈に描き出す、待望の恋愛長篇。

冒頭の過激なエロ描写に引きまくり。
うへぇ。な、なんじゃこりゃ。絲山さんってこういう作風だったっけ。うげ。だめだ。私にはムリかも。
そんな腰が引けた状態で読んでいたんだけど、中盤から俄然面白くなってきた。

そこそこにやってきていたように見えたヒデが徐々にアルコールに溺れていく様がもうとことんリアル。
ああ、なんかこんなふうにしてだめになっていくのか、人間は。こんなふうにして落ちていくのか。それはなんだか他人事とは思えなくて、読んでいる自分も一緒にだめになっていくようで、ものすごく怖くて救いが感じられなくて生々しい。
すごく印象的だったのは、アルコールに溺れてどんどん生活が蝕まれていく中、本人にその自覚はないのに、まわりから白い目で見られるようになり、そのうち「臭い」と言われるようになる、というところ。
その臭いはアルコールの臭いではなく、内側から腐ってきた人間の放つ臭いなのかもしれず、そういうことってあるんだろうなぁと妙にリアルで怖くなった。

こんな物語に救いがあるのかと思っていたら、後半になって急展開。
ああ、これは実は究極の恋愛小説だったんだね…。「ばかもの」っていうのは究極の愛の言葉だったんだね。
だみだ、こりゃ。2人とも嫌いだと思っていたヒデと頼子を、読み終わった時は、「がんばれよ!」と涙してしまっていたのだから、不思議だ。

絲山さんって読者を自分の方にぐいっと引き寄せて文句を言わせないようなところがあるよなぁ。
きっと目力も強い人なんだろう。(←断定)