ポプラの秋
- 作者: 湯本香樹実
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/06/30
- メディア: 文庫
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夫を失ったばかりで虚ろな母と、もうじき7歳の私。二人は夏の昼下がり、ポプラの木に招き寄せられるように、あるアパートに引っ越した。不気味で近寄り難い大家のおばあさんは、ふと私に奇妙な話を持ちかけた―。18年後の秋、お葬式に向かう私の胸に、約束を守ってくれたおばあさんや隣人たちとの歳月が鮮やかに甦る。
「夏の庭」に続いて2作目の湯本作品。
これもまたしみじみと素敵な物語だった。
主人公の「私」が7歳の時に突然父が亡くなる。父の死を受け入れられないのか、母は自分の殻に閉じこもり数日間眠り続ける。
母が眠っている間、缶詰のシャケを食べ続けた日々は「私」にとってトラウマとなる。
ある日目を覚ました母は「私」を連れて休みのたびに電車に乗って遠出をする。
そうして見つけたのがポプラのあるアパート。2人はここに引越して新たな日々を歩き出すのだが、ここの大家さんをしているおばあさんが二人の人生を変えていくのだ。
魅力的な老人を描かせたらこの人の右に出る者はいないんじゃないか?と思わせるほど、ここに出てくるおばあさんが素敵だ。
意地悪で得体が知れなくて魔女っぽくて自分の世界をきっちり持っていてマイペース。
だけど、誰にも言えなかった私の不安に気付き、さりげなく手を差し伸べてくれる。
それも彼女の生命そのものを受け止めるぐらいの力で。
おばあちゃんが自分の秘密を打ち明けるシーンがとてもいい。
それを聞いた私の反応がまたとてもいい。この頑なさ、生真面目さ。それは子どもに特有なものだけど、それはそのまま大人になっても続いてく「私」の芯とも言えるもので、それをちゃんとオトナの目線で描いているところがすごいと思う。
大人になって人生に躓いた「私」が、亡くなってしまったおばあさんから、そして理解し合えなかったと思っていた母から、生きる力を与えられるシーンには涙涙。
生を全うすることの力、すばらしさを教えられた気がする。素晴らしい。