腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
- 作者: 本谷有希子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/07/01
- メディア: 単行本
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「お姉ちゃんは最高におもしろいよ」と叫んで14歳の妹がしでかした恐怖の事件。妹を信じてはいけないし許してもいけない。人の心は死にたくなるほど切なくて、殺したくなるほど憎憎しい。三島由紀夫賞最終候補作品として議論沸騰、魂を震撼させたあの伝説の小説がついに刊行。
前から気になっていて、でも強烈そうだなぁ…何も好き好んで嫌なもん(←決め付け)を読まなくてもいいよなぁと思って、読むのをためらっていた作品。
いやもうこの主人公の「女優」澄伽のグロテスクなことといったら…。
自分だけが特別、自分がこのまま埋もれるはずがない、愛されて当然、認められて当然。自分の人生がうまくいかなくなったのは、まわりの人たちが自分の才能に嫉妬しているからだ。憎い憎い。私をこんなふうにした自分以外の人間が憎い。
自分を抜擢してほしいがために真っ赤な便箋で毎日若手監督に手紙を書く。
兄や妹を脅し虐待し続ける。
彼女の身勝手さと暴力性に嫌悪感を抱きながら、でも一番怖かったのは、自分にもそういう面があるっていうこと。
誰だって自分が特別だ。どんなに自信がなくたって、やっぱり自分は特別な存在で、大事にされるべきだと思っている。だから、認めてもらえなければ相手を恨むし、自分よりいい目にあっている人間を羨むのだ。
そういう人間のエゴイスティックな面を、これでもかこれでもかと白日のもとにさらす。そこが気持ち悪くもあり、爽快でもある。
澄伽と対照的なのが兄の妻、待子だ。
この鈍さ、このおめでたさはなんなんだろうと最初はいらいらしていたのだが、読み進めるにつれ、その鈍さが美しくさえ思えてくる。
濃厚な舞台を息を殺して見るようにして読んだ。
決して好きなタイプの物語ではなかったけれど、でもとても面白かった。他の作品も読んでみようと思う。