りつこの読書と落語メモ

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ナニカアル

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昭和十七年、南方へ命懸けの渡航、束の間の逢瀬、張りつく嫌疑、そして修羅の夜。波瀾の運命に逆らい、書くことに、愛することに必死で生きた一人の女を描き出す感動巨編の誕生。女は本当に罪深い。戦争に翻弄された作家・林芙美子の秘められた愛を、桐野夏生が渾身の筆で灸り出し、描き尽くした衝撃の長篇小説。

「IN」と同じように、実在の作家(林芙美子)の人生をフィクションとノンフィクションを織り交ぜながらものすごい筆力で描ききっている。
どこまでが本当のことでどこからがフィクション?と非常に気になるのだが、これは私の書いた林芙美子なのよ!と胸を張る桐野夏生の気迫が伝わってきて、「いえ、どちらでもいいです…」と気迫負けしそうになる。

野心もあって才能もある女性作家で愛国心と「真実を見たい」という作家としての真の情熱を抱きながら戦地に赴きながら、7歳年下の新聞記者謙太郎のことで頭がいっぱいで、情熱的な手紙を送ったり、彼の冷ややかな態度に傷ついたり…
この小説で描かれている芙美子は、どうしようもなく身勝手で我がままで愚かなのだが、しかしとても魅力がある。

その芙美子が、自分の作家としての仕事を恋人に侮蔑された時に、ものすごく絶望しあっけなく別れを決意する。
このあたりが、ものすごくよくわかる…。
仕事至上主義ではない。だからといって片手間に仕事をしているわけではないのだ。だから、その仕事を…たとえそれが間違ったことだったとしても、その全てを否定されることは、自分のコアな部分を否定されることと同じなのだ。
それをなんで男はわからないのだろう。

それまで決して芙美子に共感を抱きながら読んでいたわけではないのに、このシーンはまるで自分が芙美子になったように憤りを感じ、謙太郎にきっぱり別れを告げた芙美子に「よくやった」と言いたくなった。

面白かった。 桐野夏生、おそるべし。