りつこの読書と落語メモ

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愛の続き

愛の続き (新潮クレスト・ブックス)

愛の続き (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

イアン・マキューアンはいつも「うへぇ。なんか嫌な感じ…。なんかあんまり好きな作家じゃないんだよな、実は」と思いながら読み始め、徐々にページをめくる手が止められないくらい入り込み、後半「うぉーーそうきたか!」と驚き、最後まで読んで「読んで良かった…ブラボー!」と思う作家だ。

愛は続く。一方的に、執拗に。永遠に。「ぼく」につきまとい、病的なまでに愛を乞う男。その男の存在すら信じず、「ぼく」の狂気を疑う彼女―。孤独と恐怖、強迫的な愛の織りなす奇妙な三角関係。

主人公のジョーはある日恋人クラリッサと出かけたピクニックで、気球事故に遭遇する。
たまたま居合わせた人たちが救助に駆けつけるのだが、一人の男がその勇敢さ故に命を落としてしまう。
罪悪感とやりきれなさが漂う中、ジョーは救助にあたった一人の若者ジェッド・パリーに「大丈夫だよ」と励ましの気持ちから視線を送る。
その後、まだ事故のショックから立ち直れないジョーのもとに、パリーから電話がかかってくる。「あなたが僕を愛しているはわかっている」と。

パリーのストーカー行為に怯え、徐々に正気を失っていくジョー。
なぜ誰もわかってくれないのだ?
なぜクラリッサは、パリーに怯えるジョー自身に問題があるように言うのだ?
どうやって自分の身を守ればいいのだ?

最初は周囲の無理解にイライラを募らせながら読んでいたのだが、徐々に、これはジョーの妄想なのではないか?と思い始めた。そう、クラリッサのように。
ジョーの心の中にあった、自分自身への自信のなさ、クラリッサの愛を信じられない気持ち。それがだんだん狂気を帯びてくるところは、読んでいて非常に理解できて、身につまされて怖い。
そして疑いの気持ちを抱きながら読み進めていくと、衝撃のラストが待っているのだ…。

いやもうほんとにマキューアンは凄いよ…。
嫌な話なんだけど嫌な話で終わらない。静と動のバランスが絶妙。
そして誰の心にもある狂気を明るいところにざざっと出して見せて、でもそれを静かにしまってみせるところが、また凄い。
だから読むのをやめられないのだよなぁ。

以下ネタバレ。






クラリッサと行ったレストランで、隣の席に座った人たちが襲撃され、「これはほんとは自分がねらわれたのだ」と思い、自衛のために拳銃を買いに行ったところで、「ああ、結局すべてはジョーの妄想だったのだな」と思った。
しかし拳銃を手に入れたジョーのもとに電話がかかってきて、なんと家に押し入ったパリーがクラリッサを人質にとっていたのだ!

これらはジョーの妄想ではなく現実のことだったのだ!
もうこの衝撃といったら…!
そしてジョーはたった今手に入れた拳銃を使ってクラリッサを助けるのだが、彼女は感謝するどころか、パリーを追い詰めたのはジョーだと言って彼を退けるのだ。
クラリッサの言い分にもうなづけるし、しかしなんでわかってくれない!!という気持ちにもなる。

狂人パリーの愛は妄想でしかなく暴力的で破壊的で恐ろしさしか感じないのだが、ジョーとクラリッサの間にあった愛も、いかにうつろいやすく危険なものであったか、というのがひしひしと伝わってくる。
そして気球事故の犠牲者となったローガンの妻の妄想も…。決してひとごとではなく、それだけにこの真相がわかるラストには涙涙涙…。 このサブストーリー的な物語で、物語全体のカラーをほんのりと変えていくあたりは、さすがマキューアン…。いやらしいわ…。(でも好き)

あざといと感じる人もいるかもしれないけれど、私は好きだ、この小説。