りつこの読書と落語メモ

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春のオルガン

春のオルガン (新潮文庫)

春のオルガン (新潮文庫)

★★★★★

小学校を卒業した春休み、私は弟のテツと川原に放置されたバスで眠った―。大人たちのトラブル、自分もまた子供から大人に変わってゆくことへの戸惑いの中で、トモミは少しずつまだ見ぬ世界に足を踏み出してゆく。ガラクタ、野良猫たち、雷の音…ばらばらだったすべてが、いつかひとつでも欠けてはならないものになっていた。少女の揺れ動く季節を瑞々しく描いた珠玉の物語。

トモミの気持ちに寄り添って読んでいて、自分のことでいっぱいいっぱいで子どもの気持ちに気付かない親に怒りの気持ちを抱きながらも、自分もそんな親なのかもしれないとふと思ってぞっとした。

自分にも確かにあった、トモミのような時期が。
親から大人扱いされて話をされるのも重荷だし、子ども扱いされて隠し事をされるのも嫌で。
大人の間で起きていることをもやっとしか理解できず、ものすごい不安な気持ちにかられて。
自分の声が親には届かない。自分は何の助けにもなれないという無力感でいっぱいで。

でも大人になって、親になってみて初めてわかるのだ。
大人だって、全然たいしたものじゃないんだ、ってことが。
そして子どもの声が耳に届かないわけじゃないのだ。ちゃんと届いている。それが一番「こたえる」声なのだ、実は。

おじいちゃんと心が通じあって、前に進めたシーンがとても好きだ。
おじいちゃんがいてくれてよかった。テツがいてくれてよかった。猫おばさんがいてくれてよかった。
親だけでは補いきれない隙間を埋めてくれる人がいてよかった。

胸がぎゅっと痛くなるけど、すごく好きだ、この小説。