りつこの読書と落語メモ

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ベイツ教授の受難

ベイツ教授の受難

ベイツ教授の受難

★★★★★

初老の言語学者ベイツは、「難聴」が悪化し、いつもトラブルばかり…はたして教授は、女学生が仕掛ける甘い誘惑を、かわすことができるのか。

難聴が悪化して授業を続けることに苦痛を感じたベイツ教授は早期引退をしたのだが、10歳以上若い妻はインテリアショップの経営が軌道に乗り、自分が妻のお荷物になったような気持ちに陥っている。
また90歳近い自分の父はロンドンで一人暮らしをしているのだが、自分と同じように難聴でさらに認知症の症状が出始め、その父の面倒も見なければならない。
そしてさらにアレックスという魅力的な大学院生の女性が自分の研究(遺書の文体分析)の指導をしてくれと言って接触してくる。

ベイツは、失明は悲劇だけど失聴は喜劇だと言い、聞こえないことにより起こるあれこれを語るのだが、これがもう面白い面白い。
いやもう大変だなぁ…しんどいよなぁ…と思うのだけれど、自嘲的な語りとダジャレがおかしくて、つい笑ってしまう。
ロッジ自身も難聴で大学を早期引退しているということでこの自嘲的な目線は作者の目線そのものなのだろう。

老いるということは想像している以上に醜くて不自由でしんどいことなのだなぁとこれを読んで思い知らされたけれど、でも私もこんなふうに自分で自分を笑いながら老いていきたいな、と思った。

老いはだんだん死に近づいていっているということでもあるわけで、それはベイツ教授の父や、さらにはベイツ教授が見たアウシュヴィッツの収容所のシーンにもあらわれる。
こんなふうに笑わせながら、こんなにも重いテーマも同時に語ってしまうというのが、ロッジのすごいところ。

耄碌してしまった自分の父を看取るシーンがとてもいい。
自分にも老いの翳りが見えてきているベイツにとっては、父の姿はまさに明日の自分の姿。
尊厳を失わずできれば家族の手を煩わさずに死にたいと願う。父の生死に自分が判断を下したくない(無理にでも生かせ続けるのか、あるいは楽にさせてやるのか)と思う。楽にさせてやりたいと思う気持ちの一方で、自分も楽になりたいという気持ちがあることに気付き、苦しむベイツ教授。
ものすごくリアルで読んでいて苦しいのだけれど、そんな自分の正直な気持ちを妻に話し、妻とその苦しみを分かちあえているところに、救いを感じた。
シニカルだけど、温かい。それがこの小説の一番の魅力だ。