りつこの読書と落語メモ

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横道世之介

横道世之介

横道世之介

★★★★★

なんにもなかった。だけどなんだか楽しかった。懐かしい時間。愛しい人々。吉田修一が描く、風薫る80年代青春群像。

吉田修一って、「闇」を書かずには終われない作家なのかと思っていたんだけど、そんなことなかったんだ。
ああ、でも最後に「え…」っていう結末が用意されているっていうところが、この人らしいなぁ…っていうか、優しいだけでは終わらないのね、っていう感じがしたんだけど。
でもそれを含めて、今まで読んだ吉田修一作品の中で一番好きだ。

長崎から上京したての世之介くんの大学1年生の1年間を、1ヶ月1章で描いている。
大学に入学したての時の「今度こそ新しい自分になりたい。そのためには友達もちょっと選びたい」という気持ち。
友達もサークルもバイトも成り行きで転がるように徐々にうまっていって、それがいつのまにかしっくりする感じ。 誰にも覚えがあるのではないか。

世之介くんのまわりには、ちょっと世間からずれていて生き辛い人たちが集まっている。
そんな人たちに世之介くんは的確なアドバイスをしてあげられるわけでも彼らの人生を変えてしまうようなことができるわけでもないんだけど、でも20年たって彼らはみな世之介くんのことを思い出し、その想い出を語る時なぜか笑顔になって「彼に出会えるか出会えないかでちょっと人生違ってた」と言われてしまう。

特に何かあるわけではないフツウの人間でも、20年たって「出会えてよかった」と思ってもらえたら、それだけで生まれてきた価値があると言えるかもしれない。
そんなことをじわじわと真綿で首を絞めるように教えてくれる小説だった。
って、喩えがちょっとおかしいね…。

以下ネタバレ。
















と言いながらもやはり何も世之介死なせなくても良かったんじゃないか、とちょっと思っている。
いやもしかするとこの物語を作者が書こうと思ったきっかけがあの転落事故で、そこから、いったいどういう人間が…と考えて作られた小説だったのかもしれないけど…。
でもそんな風にかっこよく死なないで、おなかの出た中年になった世之介に最後会いたかったな、と思う。