りつこの読書と落語メモ

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ガラスの街

ガラスの街

ガラスの街

★★★★★

ニューヨークが、静かに、語り始める―オースターが一躍脚光を浴びることになった小説第一作。

主人公クインはウィリアム・ウィルソンというペンネームでそれなりに売れるミステリーを書いている作家。妻と子どもを亡くしてから、家にこもり友人も作らず、まるで自分の存在を消しているような暮らしをしている。
そんなクインのもとにある晩、P・オースターという私立探偵に仕事を頼む電話がかかってくる。
最初はそんな電話は無視しようとするのだが、3度目の電話がかかってきた時、自らをオースターと偽り依頼主に会いに行く。

もともと自分の存在を消しているかのように暮らしていた主人公が、今度は別の力によって、自分の存在が消されていく。 なんかとても不条理で寓話的なのだが、それでいて妙にリアルで「そういうこともあるかもしれない」と思わせるところが、とても怖い。

人との関係が希薄だと、自分の存在というのはこうも危ういものなのか。
人とつながっているからこそ、自分の存在というのは意味を持つのかもしれない。

途中でクインがP・オースター(作者本人?)と対面するシーンがあるのだが、読んでいる側は、クインと同じように家族と幸せに暮らしているP・オースターがうらやましくてたまらなくなる。
ここだけがこの物語の中で唯一色彩があるようで温かくてなんだか泣きたいような気持ちになってくる。そこがすごくよかった。
うまく言えないんだけど、この部分があるからこそ、この孤独な物語に少しだけ救いを感じることができるし、だからオースターはいい!と思ったのだった。