見知らぬ乗客
- 作者: パトリシアハイスミス
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1998/09
- メディア: 文庫
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これは見に行きたかった(そして見に行けなかった←ファンクラブに入ってからまだ何一つ当たったことがない…くしくしく…)舞台の原作ということで、たぶん酷い話なんだろうなぁと思いながらも読んでみたんだけど。 やっぱり酷い話だった…。パトリシア・ハイスミスって本当に意地悪だ。
新進建築家ガイは、妻と離婚するため故郷へ向かう列車の中で一人の青年と出会う。チャールスと名乗る男は、富豪の息子で、父を偏執的に嫌悪していた。狂気じみたように父を語る彼に、ガイはふと、妻とのトラブルに悩んでいると打ち明ける。彼の妻ミリアムは、他人の子供を身ごもりながら、離婚に応じようとしない、と。ガイに同情したチャールスは、驚くべき計画を持ちかける。彼がガイの妻を殺すかわりに、ガイに自分の父を殺してくれと言うのだ…。特殊な状況に置かれた人間たちの心理と行動を綿密に描き出した、ハイスミスの処女長編、待望の復刊。
この小説の一番いやなところは、主人公ガイは自分だったかもしれない、と思わせるところだ。
自分の浮気が原因で夫婦生活をダメにしておきながら、なかなか離婚してくれない妻。彼女のせいで自分の新しい恋も仕事も邪魔をされていると感じた時、ちらっと生まれる憎悪の感情。
そんな気持ちを巧みな言葉で聞き出すブルーノ。
ブルーノはそんなガイに交換殺人を申し出る。「とんでもない話だ」とガイは断るのだが…。
いやぁ怖い。怖いよ、怖い。
電車の中でたまたま出会っただけなのに。仕事も順調で恋人にも恵まれて後ろめたいことは何一つない人生だったはずなのに…。
ブルーノから逃れたいけど逃れられない。
逃げても逃げても追いかけてくる。
嫌悪感と恐怖でいっぱいなはずなのに、時々、そちらのほうが本物のような気がしてくる。
自分の仕事も恋人もからっぽで無意味で、ブルーノこそが自分の真の人生、自分そのもの、のような気がしてくる。
それはブルーノの狂気に自分も巻き込まれてしまい、いつしかそれは自分の狂気になってしまっているからなのだ。 そしてそれはもしかすると自分の中にもともとあったものなのかもしれないのだ。
ああ…なんとも救いのない話だった。
当分ハイスミスは読みたくない…。
でもニノのブルーノは見てみたかったなぁ。