りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ロリータ

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)

★★★★★

「ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。…」世界文学の最高傑作と呼ばれながら、ここまで誤解多き作品も数少ない。中年男の少女への倒錯した恋を描く恋愛小説であると同時に、ミステリでありロード・ノヴェルであり、今も論争が続く文学的謎を孕む至高の存在でもある。多様な読みを可能とする「真の古典」の、ときに爆笑を、ときに涙を誘う決定版新訳。注釈付。

入っている読書コミュの課題本だったので読んでみたんだけど、なにより驚いたのは想像していたのと語り口が全く違っていたことだ。
少女しか愛せない男がうじうじと薀蓄を語る小説で、耽美的で幻想的でエロティックなのだろうと勝手に想像していたんだけど、まさかこんなにも笑える小説だったとは…。

前半はハンバートの少女偏愛がこれでもかこれでもかと語られてうえ〜なのだが、しかしハンバートの自虐的な語り口がものすごくユーモラスで哀れでそしてかなりおかしい。
自分のことをハンサムで女にもてるとかインテリだと言いながら、よからぬ期待を胸に公園をうろついたり、学校のそばをうろうろしたりする様子をユーモラスに語るハンバートに、嫌悪を感じながらも笑ってしまう。

それからロリータが登場し、ハンバートがあの手この手でどうにか彼女に近づこうとするところまではまだ笑える部分もあるのだが、この2人の関係が思わぬ方向に転がって行き、徐々にハンバートがおかしくなってきて(もとからおかしいといえばおかしいのだが)、そして物語は喜劇から悲劇へ…。

前半は「これが名作なの?!」とはてな?の嵐で。
中盤はなんだかだんだん読むのがしんどくなってきて、「ああ、なんで私のこの貴重な時間をこんなロリコン男に…」という気持ちになり。
後半は物語に引き込まれ寝る間も惜しんで読んでしまった。

名作というのは素晴らしい人間を主人公にした作品ではないのだな。
そして、自分が共感できない、むしろ「ありえない!」と思うような主人公でも、ここまで書きられてしまうと、まるで自分のことのように痛みを感じたりするものなのだな。
そんなことを改めて思った。

以下ネタバレ。





物語は最初から最後までハンバートの視点から描かれている。
だからロリータが実際はどのように感じていたのかというのはわからないし、そもそもハンバートが語っていることは100%真実なのかということははっきりしない。

ハンバートは下宿先の女主人シャーロット(ロリータの母)に惚れられて結婚する。
ハンバートはもともとシャーロットのことを愛してなんかいなくてとにかくロリータをどうにかしちゃうのが目的なんだけど、 シャーロットはハンバートと2人っきりの生活を満喫したくて邪魔なロリータを寄宿舎付きの女子校に送り込もうとしていることがわかり、慌てる。
もういっそ死んでくれないかなぁと思っていると都合よく(!)シャーロットが自動車事故で亡くなるのだ。

これで邪魔者もいなくなり愛しのロリータちゃんと暮らせると喜ぶハンバートなのだが、血の繋がっていない自分がロリータをちゃんと引き取れるか心配になる。
だからロリータを連れて旅に出てしまえ!と2人で長い旅に出る。

で、いつロリータに手を出そうかと思案していると、なんとある夜、彼女のほうから仕掛けてくるではないか!
外から見たら子どもで中身は娼婦っていうのはまさにハンバートの願望を体現したようなもので、これで罪悪感もなく好きなことができるわけだ。
読んでいる側も、これでロリータが普通の純粋な少女だったら本当にハンバートのしたことはおぞましい行為以外の何物でもないのだが、ロリータもロリータだしな…という風に思わなくもなく、酷い話や…と思いながらも、そこが救いになっているようなとところもあったのだ。

が、最後の最後になって、ハンバートがこんなことを言い出すのだ。

私には他にも隠蔽した記憶があり、それが今手足を持たない怪物のような苦痛となって姿を現してきている。(中略)
ロリータの心理状態を無視するかたわらで卑しい自己を慰めるというのが、つねに私の習慣であり方法であったことに思い至る。

これはもしかして…今まで私たちが読んできたロリータ像はハンバートがそうだと思いこもうとした姿だったのではないのか。
ロリータが自分から誘ったというのは、ハンバートの都合のいい解釈なのではないか。
真相は違うのではないか。
だからこそロリータは必死にハンバートの手から逃れようとしたのかもしれないのだ。

そしてこの衝撃のラスト。
解説によるとここはハンバートの妄想なのではないかという説もあるらしい。
確かに、後半からのハンバートは明らかに狂っている。人を殺すことはできないと語っているのにこの行動とためらいのなさには違和感も覚える。
そもそも赤い車が彼ら2人を追って来るというあたりも妄想のようにも思え、彼がどんどん狂気に蝕まれていったようにも読める。

それにしても、ロリータのことをただのニンフェットとして見ていたハンバートが、かなりゆがんだ形とはいえ、ロリータそのものを愛するようになったというのが、なんだかとても皮肉でよくできた物語だなぁと思った。