りつこの読書と落語メモ

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ノーバディーズ・フール

ノーバディーズ・フール〈上〉

ノーバディーズ・フール〈上〉

ノーバディーズ・フール〈下〉

ノーバディーズ・フール〈下〉

★★★★★

今年はピューリツァ賞を受賞した作品を読んでみたいなと思っている。
で、これは受賞作品ではないんだけれど、作者リチャード・ルッソが受賞作家ということで読んでみたのだった。
この作品、ポールニューマン主演で映画化されていて、どうやらそちらのほうが有名らしい…。(検索してみて、あまりに小説の方が引っ掛からないのでびっくりした)

帯に「60歳のピュアな魂が思いがけない感動を巻き起こす」とあるんだけど、これはちょっと違うなぁと思った。(あくまでも私の場合は、なんだけど)
感動したっ!という感想ではないんだな。ぜんぜん。
でもなんだろう。読み終わった後、ずしりと残るものがあって、印象的なシーンやセリフがあって、おそらくこの小説のことは忘れないだろうと思う。それを簡単に言ってしまうと「感動」になるんだろうか。いや違う。違うなぁ。

主人公サリーは地元の建設会社の仕事を請負って生計を立てている60歳の男。このサリーを中心にした四世代にわたる親子の物語。多様な登場人物がサリーのまわりに集まり物語が展開していく。

ノーバディーズ・フールというのは「煮ても焼いても食えないやつ」という意味らしいのだが、主人公サリーはまさにそんな男だ。
労働者でケンカ早くて酒飲みでいつも問題ばかり起こしている。
そんな彼のもとには、彼の元教師で気難しい未亡人ベリル、その息子で銀行マンのクライヴ・ジュニア、サリーの離婚した妻ヴェラ、彼女の再婚相手で気のいいラルフ、サリーの息子ピーター、ピーターの息子ウィル、サリーの親友で頭の弱いラブと、一癖も二癖もあるような人間が集まってくる。
サリーのことを愛してやまない人もいれば、積年の恨みをいつかはらしてやりたいと企てる人もいる。

サリー自身は、酒飲みで暴力的でずるい男だった父を憎み、父のすべてを否定して生きている。
60歳になってなお親への恨みを捨てられないサリー。そんなサリーは父のように子どもに暴力こそ振るわなかったけれど妻にも子にも無関心で息子ピーターから恨まれている。けれどピーターはサリーのことを恨みながらも、どこかでサリーをうらやましく思い、離れがたい気持ちを抱いている。

親への恨みを捨てられないこと。そんな親の血が自分にも流れていること。間違った道ばかりを選んでしまうこと。
サリーの人生はうまくいかないことだらけで欠けているものだらけで、さらに悪いことにサリーには「良くしよう」という気持ち自体が欠如している。
いつも何かしでかしてしまいそうなサリーは、見ていてるだけで疲れるんだけど、でも嫌いになれない。その頑なさや不器用さがものすごく愛おしくなる。
身勝手なところもあるけど、きらりと光る優しさや誠実さに魅了されてしまうのだ。

そしてこの小説もそんな魅力に溢れている。
読んでいる間はもうへとへとになって1つの人生を生き切ったみたいに疲れたけれど、そして奇跡が起こるわけでもないんだけれど、出会えてよかった、としみじみ思える小説だった。