りつこの読書と落語メモ

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見知らぬ場所

見知らぬ場所 (新潮クレスト・ブックス)

見知らぬ場所 (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

『停電の夜に』以来9年ぶりの最新短篇集。本年七月、フランク・オコナー賞受賞!
妻を亡くしたあと、旅先から葉書をよこすようになった父。仄見える恋人の姿。ひとつの家族だった父と娘がそれぞれの人生を歩む切なさを描く表題作。子ども時代から行き来のあった男女の、遠のいては近づいてゆく三十年を三つの連作に巧みに切り取った「ヘーマとカウシク」。ニューヨーカー等に書きつがれた待望の最新短篇集。

私が読書をしていて最も幸せを感じるのは、自分が物語の中にすぽっと入り込んでしまって、時間も場所も今の自分のなにもかもを忘れてしまう、そんな時だ。
この小説は読み始めた瞬間に物語の中にすっと入り込めて、数ページ読んだだけで「当たりだ!」と思ってうれしくなった。

短編集とあるが、物語がつながっているものもあるし、同じようなテーマで描かれているので短編という感じがしない。
どれもインドのコルカタからアメリカに移住してきたベンガル人の家族の物語なのだが、連れてこられた子どもたちの視点から描かれた物語が多いので、親の世代ほど「インド」を引きずっておらず、そういう部分での軋轢や葛藤も少ないように感じた。
だから逆に彼らが感じる小さな違和感は、私にはリアルに感じられた。

1作目の「見知らぬ場所」がとてもいい。
知っているようで知らない、クールなようでいてホット、ほとんど接点がないようでいて深いところでつながっている、この親子関係がとてもリアルでとても好きだ。
まるで自分がルーマであるように、また父であるように感じながら読んだ。

2作目の「天国/地獄」も好きだ。
「常識的なツマラナイ大人」と括るには、あまりにも純粋で傷つきやすいこのお母さんが好きだ。きっと墓場まで黙って持っていくつもりだったこの物語を、娘の一番つらい時に話して娘を慰めようとした母の心が泣けた…。

そして第2部のヘーマとカウシクの連作がもうすごくよかった。
ドラマティックなんだけどとても冷めていて、冷めているんだけどすごくロマンティック。中篇だけど、映画でもいけるような気がする。