りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ニシノユキヒコの恋と冒険

ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)

ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)

★★★★

ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ…。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作集。

読むほどに大好きになってくる川上弘美
正直言って、今まで読んだ中では唯一微妙だったんだけど、それでもやっぱり私はこの人の書くものが好きだなぁと思った。どこが好きってうまく言えないのだけれど、一番好きなのは清らかさかな。読んでいてとてもきちんとした気持ちになるというか、とてもきれいなものに触れた感じがするというか。背筋がぴんと伸びる感じがする。そこが好き。

ニシノユキヒコはどうしようもない男だ。チャーミングで優しくてナイーブで。だけどどうしようもなく残酷で身勝手だ。
こういう男が身近にいたら好きになるだろうかと考えると、自分で自分が嫌になるくらい、だめな好きになり方をしてしまうような気もするし、彼の魅力にもぞっとするような闇にも気付かず通り過ぎてしまうような気もする。

関わる女性によってくるくると色を変えるニシノくん。たどりついた結論は似たようなものだったり、全く違っていたりするけれど、結局それはそれぞれの女性たちの性格や生き様によって変わってきているのだな、ということが何篇か読んでいくと透けて見えてくる。
「うへぇ。これはかなわんなぁ」という女性もいれば「アッパレ」と手を叩きたくなる女性もいる。

恋愛する上で一番の強みは、相手を愛していないことなのかもしれないなぁ…。
人を好きになるということは、寂しいことなんだなぁ。でもぱっと燃えて消える花火のような恋愛っていうのもいいものだなぁ。無理矢理自分で消してしまうこともあるけれど、それでも確実に自分の中に何かを残していっているのだ、その恋愛は。