りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

しみじみ読むイギリス・アイルランド文学

しみじみ読むイギリス・アイルランド文学 (現代文学短編作品集)

しみじみ読むイギリス・アイルランド文学 (現代文学短編作品集)

  • 作者: ベリル・ベインブリッジ,阿部公彦,岩田美喜,遠藤不比人,片山亜紀,田尻芳樹,田村斉敏
  • 出版社/メーカー: 松柏社
  • 発売日: 2007/06/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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★★★★

12篇の大人と子供の物語。各翻訳には訳者の解説付き。彼女の親の反対を押し切って駆け落ちした主人公のぼく。だが生活費がつきてくると二人の関係がにわかにくずれ始めるグレアム・スウィフトの「トンネル」。借金を繰り返す夫に苦労しながらも家庭を守る母親が、突然届いたきれいな敷物の送り主に淡い期待を抱きつつ探し始める「敷物」。十数年ぶりにアメリカから日本の生家に帰った主人公だったが、父親とのわだかまりが消えるどころか改めて浮き上がってしまうカズオ・イシグロの「ある家族の夕餉」など珠玉の12 篇。

ぱっとしない(←言いすぎ?)タイトルだけど、これがなかなか良かったのだよ。
ここに収められている中で知っている作家は、カズオ・イシグロ、グレアム・スウィフトぐらいだったんだけど、それ以外の作品にも「おおっ」と思うものが幾つかあって、ええもん読んだなぁというお得感があった。

お国柄なのか?カトリックをテーマにした作品が多いんだけど、それらが意外に面白かった。
宗教を持たない私にはきっと真に理解はできていないのだろうと思う。でも「宗教」の部分を、自分の根底にある道徳心とか善悪の基準と置き換えて読んで、十分共感できたし「ここまで書くことが許されるんだ?」と驚きもした。

ここに収められた小説の中でダントツに好きだったのが、フランク・オコナーの「懺悔」。
ああ、これ好きだなぁ。これを読めただけでこの本を読んで良かったと思うぐらい好き。
主人公の少年は、まるでここに描かれているのは自分のことなのではないか?と思うぐらい共感してしまったんだけど、なによりここに出てくる神父がいい。この人が素敵ーー!というのではなく、描き方がいい。どういう風にも転べる、あいまいさがなんともいい。

なんじゃこりゃ?と思って読んでいて、途中で「ああ、カレが書いた小説だったのか」と妙に納得したのが、カズオイシグロの「ある家族の夕餉」。
日本人以上に日本人っぽいところがなかなか楽しかった。

「トンネル」も、なんか力のある小説だなぁと思って、後で作者を見たら、グレアム・スウィフトだった。
ああ。そうだったのか。やっぱり短い小説でもすごい人はすごいんだなぁ、と妙に納得してしまった。

短編ごとに詳しい解説がついていて、最初は「余計なお世話」に思えたけれど、大学の講義を聞いているようで、だんだんこの解説を読むのが楽しくなってきた。
姉妹編?の「しみじみ読むアメリカ文学」もいつか読んでみよう。