りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

三面記事小説

三面記事小説

三面記事小説

★★★★

バリケードのような家に住む姉夫婦、妻殺害をネットで依頼した愛人の心の軌跡…。誰もが滑り落ちるかもしれない記事の向こうの世界。現実がうみおとした6つの日常のまぼろしを、鮮やかに描いた小説集。

実は私は角田光代ってずっと「だから、あなたも生きぬいて」を書いた人だと思っていた。
うへぇ。みんなそういうのを読むんだ?そんなに評価されているんだ?私はあんまりそそられないけどなぁ…。いや読んでみたらすごく感動するんだろうけど、今はちょっといいかな。そんな気持ちでいた。
ある日友だちのブログで彼女が角田光代をその人と勘違いしていたと書いてあったのを読んで、「え?違うの?」と、初めて別人であることを知ったのだった…。

初めて読む角田作品がこれってどうなんだろう?これは彼女の作品の中でどういう位置にあるんだろう?わからないけれど、これが代表作なのではないんだろうなという気はした。
読み始めはちょっと乃南アサに似ているような感じがしたんだけれど、乃南アサより好きかもしれない。

三面記事を元に書かれたフィクション。下世話だなぁと思いながらワイドショーを見ているのにも似た小さな罪悪感を抱きながら読みはじめ、しかし読んでいるうちに、それは本当に他人事ではなく自分が当事者であったような後ろめたさや焦燥感を感じてしまっている。
私が彼女だったかもしれない。これは忘れたかった真の私の姿なのかもしれない。そう思わせる力が確かにあった。

自宅の庭に恋人?の女性の遺体を26年間埋めていた男が自首したという事件をもとに書かれた「愛の巣」。これはほんとにぞっとした。自分が彼女たちのようにはならないと言い切ることができるだろうか?
異常な状況の中でようやく手にした心の平穏と、自分が信じていた幸福が嘘っぱちであったと気がつくことの恐ろしさ。うわーー嫌だ…。

闇サイトで不倫相手の妻の殺害を依頼する「ゆうべの花火」。中学生の時の濃ゆい女同士の友情?を描いた「永遠の花園」。そして妹の死体を姉が見つける「赤い筆箱」。
自分にそういう面があったということを思い出すのも嫌でふたをしていた過去を暴かれたような、いや〜な気持ちにさせられる。自分が持っていてできれば知りたくない、見たくないと思っている自尊心、猜疑心、独占欲、暴力性。理性があっという間に崩れ落ちていく瞬間を描くのがとてもうまい…。

「彼方の城」はこの中でもっとも醜悪な小説だと思った。うえー。
最後に収められた「光の川」は身につまされる…。身につまされすぎて苦しくなってくる…。ううう。

こういう事件はしょっちゅう起こっていて、新聞で読んでも「ああ、またか」という程度の感想しか持たないのだけれど、こんな風にリアルに描かれると、それらは決して他人事ではなく、正気が狂気に変わる瞬間は自分にも訪れるかもしれない、という暗澹とした気持ちにさせられる。
あー。次はダークじゃない小説を読みたい。