りつこの読書と落語メモ

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ファラゴ

ファラゴ (Modern&Classic)

ファラゴ (Modern&Classic)

★★★★

「高校生が選ぶゴンクール賞」受賞作。時代と文明から取り残された小さな村ファラゴを舞台に、野生の孤児ホーマーと、彼をとりまく「心やさしき人々」が織りなす冒険と思索のオデッセイ。

この説明文を読んでもこれがどんな小説なのか想像しづらいと思う。私も最初にこれを読んだ時、いったいどういうムードの小説なのか想像がつかなかった。面白いかもしれないけれど、もしかするとすごく苦手なタイプの小説かもしれない、とも思った。
実は読み終わった今もどういう小説だったかよくわかっていないし、ものすごく好きな小説だったのかそうでもなかったのかよくわからない。でもものすごくぐっとくるところがあったし、胸に突き刺さる場面や言葉もあったし、独自な小説であったことは間違いないと思う。

主人公は孤児として生まれ各地を放浪しファラゴに戻ってきたホーマー。ホーマーは家も定職も持たず、森に暮らす野生児だ。
彼を取り巻く人たちも強烈だ。
鍛冶場を作りたいという夢を抱き続けているイライジャ。イライジャは時々激しい放心状態に陥り、そんなときは死んだおばあさんに会いに行っているらしい。荒唐無稽な夢ばかりを語るイライジャは村の人から相手にされていないけれど、ホーマーとは何か通じ合うものがあるような、ないような…。
謎の過去を持ちながら食料品店を営むファウストー。この人の過去の物語がこの小説の伏線にもなっているのだが、この部分が私は一番面白かった。主軸となっている物語よりこちらのほうに惹かれた。
そのほかにもゴミ捨て場に暮らす黒人のデューク。ホーマーがその乳房に恋をする売春婦のオフィーリア。

ファウストーの過去の打ち明け話を聞いた後にホーマーがつぶやく。「俺の人生をひとつの運命に変えるような出来事が起こりますように」
まさにその願いの通り、ホーマーには人生をかえるような出来事が次々に起こる。森の野生児ホーマーがどんな風に転がっていくのか、どういう人生を選択するのか。これはホーマーの成長の物語、と言えるかもしれない。

ホーマーの経験していく出来事は波乱万丈で激しいものなのだが、語り手としてのホーマーは思慮深く理屈っぽく脱線も多く、ある意味スローだ。それがこの物語に独特のリズムを生み出している。

ホーマーは言う。「大事なのは人生ではなく、人生の語りかたなのだ。」「不幸というのは、人々が自分の不幸を語れないことをいうのだと俺は思った。」
自分で自分のことを語れるようになったらそれは勝ったも同然だと思う。つらいことの真っ只中にいるときはそのことを誰かに打ち明けたりする気持ちにはなれない。話せるようになったということはそれをある程度は乗り越えた証なのだと思う。
ホーマーの生い立ちや育ち方は決して幸福なものではなかったけれど、こうして語り始めたホーマーはもう前のホーマーとは違ったのだろう。

ただ、これはホーマーの成長の物語と先ほど書いたけれど、それだけでは終わらない何かがあって。それが何なのか実はまだよくわかってなくて。そこがなんとももやっとした読後感を残しているのだよなぁ…。まあなんにしても読んで損はない小説だったのではないか、と思ったり思わなかったり。(どっちやねん)