りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ナイフ投げ師

ナイフ投げ師

ナイフ投げ師

★★★

「ナイフ投げ師」...ナイフ投げ師ヘンシュが町に公演にやってきた。その技は見事なものだったが、血の「しるし」を頂くための、より危険な雰囲気が観客に重くのしかかる。
 「夜の姉妹団」...深夜、 少女たちが人目のつかない場所で、性的狂乱に満ちた集会を開いているという。その秘密結社を追いかけた、医師の驚くべき告白とは?
 「新自動人形劇場」...自動人形の魔力に取り憑かれた、名匠ハインリッヒの物語。その神業ともいうべき、驚異の人形の数々を紹介する。
 「協会の夢」...「協会」に買収された百貨店が新装開店する。店に施された素晴らしき趣向の魅力は尽きることなく、私たちを誘惑する。
 「パラダイス・パーク」...1912年に開園した伝説の遊園地を回顧する。遊園地は度肝を抜くような、過剰な施設や出し物によって大いに人気を博すが、そこには意外な結末が待っていた。
 「ミルハウザーを好きになることは、吸血鬼に噛まれることに似ている」と訳者が「あとがき」で述べるように、本書は<ミルハウザーの世界>を堪能できる、魔法のような12の短篇集だ。

久しぶりのミルハウザーミルハウザーの小説を夢中になって読んだのがかなり前のことなので、ミルハウザー小説の楽しみ方をちょっと忘れてしまっているのか?期待が大きすぎたのか?ちょっと戸惑いを覚えたというのが正直な感想。私にはちょっと難しかったかなぁ…。

表題作の「ナイフ投げ師」はなんかすごい作品だった。
サーカスや見世物を見に行く時に抱く、なんとなく胡散臭い感じや罪深い感じがひたひたと迫ってくる。まるで自分がその場にいてナイフ投げを見つめているような臨場感、既視感がある。
たったの20ページ足らずでこんな気持ちにさせるなんて、ミルハウザーってすごいんだなぁ…。

「新自動人形劇場」、これはいかにもミルハウザーらしい作品だと思うんだけど、この作品にはなんとなく見たらいけない作り途中のものを見てしまったみたいな感じが私はしてしまって、ちょっと居心地が悪かった。
あまりに物語性が薄くて、なんかまだ小説として昇華していないような感じがしてしまったのだな。だけど、これはもしかするとこの物語で語られているように、小説家としての技を考え抜いた結果こんな風になったという小説なのかもしれない。究極の自動人形を追い求めた結果、「人間らしさ」をかけ離れた、妙にぎくしゃくした人形が出来上がった、みたいな感じ。

「夜の姉妹団」は同名のアンソロジーで以前読んだことがある。
「ナイフ投げ師」を読んでいる時に感じた、自分の心の中にある暗くて後ろめたくて自信のない部分を白日のもとにさらされるような感じがあった。これ、嫌いじゃない。

好きだったのが「空飛ぶ絨毯」「月の光」。私はやっぱり物語性の強い小説が好きなんだな、きっと。

なんとなくもやっとしてしまったので、昔読んで今はもうすっかり忘れてしまっているミルハウザーの作品をもう一度読んでみたくなった。

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