りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ラナーク

ラナーク―四巻からなる伝記

ラナーク―四巻からなる伝記

★★★★★

フィクションの愉しみがぎゅっと詰まった小説だった。
メタフィクションでもありSFでもありミスリーでもあり青春小説でもあり愛の物語でもある。ストーリー自体もさることなら、物語の構成や展開にも仕掛けがたっぷり。とにかくめくるめく物語に翻弄されクラクラ〜。いやぁ楽しかった!
そして重い!「コレクションズ」「紙葉の家」に匹敵する重さなのだ。凶器になるよ、この本は。電車の中で読む時はとにかく絶対手から離さないようにを心がけました、はい…。

スコットランド文学の奇才アラスター・グレイの第一長篇にして最高傑作『ラナーク―四巻からなる伝記』は第三巻から始まる。記憶を持たない青年ラナークは退廃の色濃い都市アンサンクを彷徨し、謎にみちた奇怪な施設に収容され、やがて混沌と陰謀の渦巻いた大騒動にまきこまれる…悪夢的幻想世界での冒険を強靱な想像力で描く第三巻・第四巻。そして画家志望の少年ダンカン・ソーの友情と初恋、苦悩と幻滅をリアリズムの手法で瑞々しく描く第一巻・第二巻。二つの異なる世界は仕掛けに富んだ語りで絶妙に絡み合い、物語は鮮烈な黙示録的ヴィジョンをむかえる―SF・ミステリ・ファンタジー・半自伝・ビルドゥングスロマン・メロドラマ・文芸批評・メタフィクション等々あらゆるジャンル・小説形式をミックスした現代の叙事詩、ついに登場。

アンサンクという街にラナークと名乗る男がいる。
どうやら旅をしてきたらしくこの街には知り合いがいないらしい。そんなラナークが毎日通うカフェでスラッデンという男に話しかけられる。常に友人と女たちに囲まれまるで王様のように振舞うスラッデン。
スラッデンとその仲間たちも謎に満ちているが、主人公ラナーク自身も謎だ。どうやら過去の記憶がないらしいのだが、この街にはそんな人間がたくさんいるようなのだ。

彼の謎に満ちた過去は次の章で明らかになる。
身体の甲殻化がすすみ(!!)どこだかよくわからない病院に入院したラナーク。そしてそこで彼は自分の過去について「お告げ」に話をしてもらうのだ。そしてこの「お告げ」が語るラナークことスーの物語が第一巻なのである。

奇想天外さと不条理さはかなりのものなのだが、コミカルでユーモラスなので結構読みやすい。特に天才的な絵の才能をもちながら、喘息もちで皮膚病持ちのスーは、見ていてつらくなるぐらい生きるのがつらい主人公で、彼の言動に冷や冷やしたり、友だちができてほっとしたり、誰からも愛されないことに一緒に絶望を感じたり。こういう情緒的なところがなかったら、とてもじゃないけど私が「読める」小説ではなかったかもしれない。構成や仕掛けはとても実験的だから。

作者自身が画家でもあり、表紙や中表紙やイラストも描いている。スーの学生時代はおそらく作者自身のものに近いのだろうなと思わせる。
楽しく読んだけれど、後半ちょっと失速ぎみに感じられて、そこがちょっと残念だったかな。でも文句なしに楽しめる小説だった。