りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

夕映えの道〜よき隣人の日記

夕映えの道―よき隣人の日記

夕映えの道―よき隣人の日記

★★★★★

ジャンナは高級女性誌の有能でファッショナブルな副編集長。数年前に夫と母を癌で亡くして、彼女の人生は大きく変わった。ひとりぼっちになったジャンナは、もう若くはなく、よりどころもない自分のもろさをはじめて意識する。そんな時、近所の薬局で90歳過ぎの貧しい独り暮らしの老女モーディーと出会い、その独立心旺盛な強い個性に惹かれ、しだいに人間的な絆で結ばれてゆく。老いの孤独と仕事をもつ女性の問題に真摯にむきあい、切なくもしみじみと深く胸を打つ、正真正銘の感動作。

2007年度ノーベル文学賞を受賞というニュースで初めてその名前を知ったドリス・レッシング。どういう小説を書く人なのか全く知識のないまま、なんとなく題名に惹かれて読んでみたのがこれ。

地味だけどとてもいい小説だった。
ファッショナブルで自己中心的に生きてきた有能な副編集長ジャンナが、1人暮らしの貧しい老女モーディと出会い、「巻き込まれる」ことを恐れながらも、彼女に惹かれ、老いと死と向き合う、という内容。モーディの老いの描写はほんとに容赦なく、ジャンナの心の動きもとてもリアルだ。
モーディはプライドばかりが高くて気難しく扱いづらい老人で、「もうこんなことはやってられない」とジャンナが幾度となく思う気持ちにも頷ける。でも行かずにはいられないのだ。
それは彼女の姿が何十年か後の自分の姿に重なるから。社会にスポイルされ続けてきた人たちの苦しみを見てしまったから。自分の手には負えないと思う一方で、ジャンナと一緒に過ごせた今日が人生の中で一番いい日だ、とつぶやくモーディの気持ちに触れたから。

ノーベル文学賞受賞と聞いて、私には理解できないぐらいすごいんじゃないかと思っていたけれど、この作品に限ってはなのか?全然そんなことはなかった。自分が知らない素晴らしい作家がまだまだたくさんいるんだなぁ。そう思うとなんだか焦りを感じてしまう。