りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

サーカスの息子

サーカスの息子〈上〉 (John Irving collection 1989-1998)

サーカスの息子〈上〉 (John Irving collection 1989-1998)

サーカスの息子〈下〉 (John Irving collection 1989-1998)

サーカスの息子〈下〉 (John Irving collection 1989-1998)

★★★★★

この小説は傑作ではないかもしれない。冗長に思えるところ(これはいつものこと?)やちょっとぬるいようなところ(これはアーヴィングにしたら珍しい?)もあったけれど、でも私は好きだ。ああ。私はアーヴィングを愛してる!読んでいて何度もそう思った。

カナダで整形外科医として成功しているダルワラは、ボンベイ生まれのインド人。数年に一度故郷に戻り、サーカスの小人の血を集めている。彼のもうひとつの顔は、人気アクション映画『ダー警部』シリーズの覆面脚本家。演じるのは息子同然のジョン・Dだが、憎々しげな役柄と同一視されボンベイ中の憎悪を集めている。しかも、売春街では娼婦を殺して腹に象の絵を残すという、映画を真似た殺人事件まで起きる始末。ふたりは犯人探しに乗り出すのだが。

カナダで整形外科医をしているインド人のダルワラは父親の跡をついでインドで「不具の子どものための病院」の名誉顧問もしている。トロントとインドをオーストリア人の妻と一緒に行ったりきたりしながら、どこにいても自分は余所者であるという疎外感を抱いている。このダルワラのゆるさがこの小説のゆるさにそのままなっている。どっちつかずでおまぬけでずれていてだめ人間。善意を山ほど抱え、でもやり方がへたくそで不器用でかっこ悪くて中途半端。だけどほんとに愛すべき人物なのだよなぁ、この人が。

そして彼が息子のように愛しているのが、「ダー警部」ことジョン.D。憎憎しげな役柄でボンベイ中の憎悪を集めているこの皮肉屋で冷血で何を考えているかわからないこの男。彼の出生の秘密、生き別れになった双子の兄弟、そして殺人事件。
音がするくらいのドタバタで、特にジョン.Dの双子で司祭を志しているマーティンが登場したあたりでは、「うえっ。これはもう私の限界をこえたドタバタかもしれない」と思い、ああ、苦手な人物だ、マーティン。この人だけは好きになれないかもしれない。そう思ったけれど、なんだろう。最後まで読むと、愛しさがこみあげてくるのだよなぁ、マーティンにも。

「こういう風にまとめたいのだな」というのが、この小説はちょっとわかりやすくて、そういう意味でいうと、他の作品のように、最後まで読んで「うぉおおおお(鳥肌)」という驚きは少なかったのだけれど、でもじんわりといいなぁ…と思える後味で、よかった。
ああ。やっぱりいい。アーヴィング。らぶ。