りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

なつかしく謎めいて

なつかしく謎めいて (Modern & classic)

なつかしく謎めいて (Modern & classic)

★★★★

翼人間、不死の人、眠らない子ども…不思議な場所の不思議な人たち、私たちと全く違っているようで似ている人々は謎めいているけれど、どこかなつかしい。SF/ファンタジー界の女王が放つ深い思索とユーモアに満ちた新ガリバー旅行記

飛行機の乗り継ぎのため空港で足留めを食ったとき。何もすることがないのにただそこにいなければならない苦痛、退屈、不快感。これこそが次元間移動の必須条件になるのである。
語り手の「私」は、この次元間移動のコツを友人に教わって、次元間旅行を楽しむようになった。これは次元間旅行の15の紀行文を集めた小説なのである。

次元間旅行の紀行文ということで、次元の異なる不思議な国の不思議な人たちの生活、人生について、淡々と綴られている。ジャンルでいったらSFになるのだろうか。いやしかしSFっぽくはないのだ。奇想?これこそが奇想といえるのか。なんとも独特の雰囲気、世界観をもった小説なのだなぁ、これが。

玉蜀黍生まれの女性との会話が楽しくも恐ろしい「玉蜀黍の髪の女」から始まって、徹底した言語不使用の人たちを描いた「アソヌの沈黙」、不眠を追求した結果恐ろしい悲劇が生まれる「眠らない島」…。
ユーモラスにシニカルにときにロマンティックに。次々とおかしな次元の国の不思議な人々の生活が語られていく。
いやしかしこの小説のすごさはそれだけではないのだ。

うーん…なんかもうそろそろいいかなこういう物語も…と思い始めた頃に、たんなる奇想とはいえないような哲学的な作品が登場しだすのだ。とてつもなく巨大な宮殿をひたすら作り続ける「謎の建築物」、千人に1人の確率で翼が生える奇形が生まれる「翼人間の選択」、そして不死の人たちが住む島について書かれた「不死の人の島」、そしてこの今までの次元間旅行を締めくくるにふさわしい「しっちゃかめっちゃか」。ここまで読んで、これはただの短編集ではないと気付かされるのだ。うおおー。すごい作家だなぁ、こりゃ…。さすがSFの女王。スケールがでかい…。

とにかくこの後半の4作がものすごくいい。特に「翼人間の選択」と「不死の人の島」が良かったなぁ…。これが読めただけで本当にこの小説にめぐり合えてよかったと思えたよ、私は。