石のささやき
- 作者: トマス・H.クック,Thomas H. Cook,村松潔
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/09/04
- メディア: 文庫
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前作で酷い目にあったので(ヘタという意味の酷いではなく、むごいの意味の方の酷い)、もう当分読むまいと思っていながら、ついつい手を出してしまったクック。そもそもクックは、重苦しくて後味の悪い作品が多いので、大好きかと聞かれれば決して大好きなわけではないのだが、それでも新作が出ると「読まないわけにはいかない」という気持ちにさせられる作家なんだよなぁ。
妹が壊れはじめたのは、幼い息子を亡くしてからだった。すべてが取り返しのつかない悲劇で幕を下ろしたあと、私は刑事を前に顛末を語りはじめる……。破滅の予兆をはらみながら静かに語られる一人の女性の悲劇。やがて明かされる衝撃の真相。人の心のもろさと悲しみを、名手が繊細に痛切に描き出した傑作。
わたし(シアーズ)が取調べ室にいて刑事に事情聴取されている現在と彼が語る過去、この二つが入れ替わりながら話が進んでいく。
姉イザベルは幼い息子ジェイソンを失くしてから精神的な均衡を崩していく。シアーズとイザベルの父もまた心を病んでいた。父と同じようにイザベルも壊れていくのではないかという恐怖。イザベルが息子の事故を夫マークによる殺人と思い調査をしていて、それに自分の娘パティが巻き込まれていくことの恐怖。ああ…。クックの小説を読んでいるとなんでこんなに追い詰められていくような気持ちになるんだろう。
ああ…先を読むのが怖い…そんな気持ちで読みすすめていくうちに、ふと思う。あ…もしかして…?そのあたりからだんだん物語が面白くなってきて、おうおう言いながら読んでいって、そしてこのラストに「うおおおお」。ってなんのこちゃからわからない感想だな、これじゃ。だけどやっぱりミステリーはネタバレしちゃいかんもんね。
クックほど読んでいる時の自分の精神状態によって評価が分かれる作家はいないかもしれない。気分じゃないときに読むと、この暗さとまどろっこしさにキーとなる。だけど自分の状態が良くて物語にぴたっとはまると、おおおおー面白い!さすがクックだ!と感じる。そういう意味で今回は面白い!と思った。少なくとも前作よりは好き。
以下はネタバレ。
読み進むにつれて、もしや狂っているのは姉ではなくわたしの方なのではないか?と思う。そして時折吐き出される姉への苛立ち、嫉妬の感情にはっとする。もしやわたしはたんに姉に巻き込まれたわけではなく、わたしのほうが狂っていって何かをしてしまったのか?
そして刑事への語りの部分で時折「おまえは…」という記述が入るのだが、それはたんに自分を客観的に見ているのではなかったのだ、と最後まで読んで気付くのだ。うおおおおー。やられたーー。石のささやきが聞こえていたのはイザベルだけではなかったのだ!!
多分「気分じゃない」時に読んだらたんに不快感を感じて終わりだったかもしれないけれど、私は今回はやられた!と思ったし、クックうまい!と思った。