りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

形見函と王妃の時計

形見函と王妃の時計 (海外文学セレクション)

形見函と王妃の時計 (海外文学セレクション)

★★★★

探索が始まったのは一枚の図書請求票と、ある典雅な男性からの慇懃な質問がきっかけだった。「卒爾ながら」男性は、ほんのごくわずかに会釈をしながら言った。「少々お時間を拝借させていただきたいが」ニューヨーク公共図書館に勤める20代の司書アレクサンダーは、ある金持ち老人から時間外の仕事の依頼を受ける。器械仕掛けや稀刊本のコレクションに熱をあげる老人は、蒐集物のひとつである18世紀の「形見函」の空の仕切りに、しかるべき品をおさめたいとの思いに取り憑かれていた。古い伝記を繙くと、その品とはマリー・アントワネット、つまり王妃の依頼を受けて作られた絢爛豪華な懐中時計であるとわかる。盗まれた時計をさがすアレクサンダーを陥れようと、老人が巧みに仕掛けた罠。そして著者が仕掛けた読者をも欺く罠とは。

前に読んだ驚異の発明家の形見函の姉妹編。続編ではないんだけど、物語がリンクしている部分が結構あるので、「驚異の発明家の形見函」を先に読んでいると、にやりと笑える回数も増えるというもの。

「驚異の発明家の形見函」でこの形見函を手に入れたのが、この本に登場する大富豪ヘンリー・ジェイムズ・ジェスン三世なのだろう。この形見函の空の仕切りに入っていた品を調べてほしいと依頼されるのが、今回の物語の主人公である図書館員アレクサンダー。いやこのアレクサンダーが前作のクロードに負けず劣らずの変人なのだ。ノートを服につないで(帯留め帳というらしい)なんでもかんでも書き留める。そんな性癖(?)を買われて、ジェスンに雇われるのだ。

今回は図書館が舞台で、作者自身が図書館に詳しいということもあって、本や図書館の分類法などについての薀蓄もたっぷりでこれがとても楽しい。そして前作の尊師と同様、ジェスンが一筋縄ではいかない人物なのだな。
アレクサンダーの奥さんで書籍デザイナーのニック、コンピュータに詳しい同僚のノートン、図書館の生き字引のような保守点検スタッフのパラディスと、登場人物がみな変人揃いでキャラが立っていて楽しい。
そして仕掛けがたくさんあって、最後にはあっと驚かせてもらえる。

ただ好みは分かれるところだと思うけれど、私は「驚異の発明家の形見函」のほうが好みだったかな。