りつこの読書と落語メモ

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海に帰る日

海に帰る日 (新潮クレスト・ブックス)

海に帰る日 (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

最愛の妻を失った老美術史家が、遠い日の記憶に引き寄せられるように、海辺の町へと向かう。あの夏の日、双子の弟とともに海に消えた少女。謎めいた死の記憶は、亡き妻の思い出と重なり合って彼を翻弄する。荒々しく美しい、海のように――。カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』をおさえてブッカー賞を受賞した傑作長篇。

「わたしを離さないで」をおさえてブッカー賞を受賞したんでしょ?「わたしを離さないで」よりすごいんでしょ?どこがどういうふうにすごいの?そんな邪念いっぱいで読んだこの作品。一言目には「わたしを離さないで」をおさえてブッカー賞と言われてしまうというのは、ちょっとかわいそうなことだなぁ…とも思う。私にはどちらがすごかったかどうすごかったかはよくわからなかったけれど、でも良かった。うん、すごく良かった。この間読んだ「バーチウッド」よりぜんぜん好き。訳も断然良かったと思う。好みの問題もあるかもしれないけれど、文章が妙にカクカクした感じがなくて、わかりやすくて美しくて、断然良かった。

妻を失った老美術史家が、少年時代の想い出と妻との想い出を語る。波が寄せてはかえすように、現在と過去が静かに時に激しくある一定のリズムを持ってよみがえっていく。
ものすごく斬新なわけでもなければ壮大なわけでもないけれど、物語の中に圧倒的な力で引き寄せられる。絵の話が出てきたり、自然の丁寧な描写があったりする中で、だんだんにじみ出てくるものがあって、そのイメージがとても美しい。この美しさは「バーチウッド」を読んだ時には感じられなかったもので、だから私はこちらの方が好きだなぁ…。