りつこの読書と落語メモ

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ウォーターランド

ウォーターランド (新潮クレスト・ブックス)

ウォーターランド (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

妻が引き起こした嬰児誘拐事件によって退職を迫られている歴史教師が、生徒たちに、生まれ故郷フェンズについて語りはじめる。イングランド東部のこの沼沢地に刻まれた人と水との闘いの歴史、父方・母方の祖先のこと、少女だった妻との見境ない恋、その思いがけない波紋…。地霊にみちた水郷を舞台に、人間の精神の地下風景を圧倒的筆力で描き出す、ブッカー賞受賞作家の最高傑作。

妻が起こしたスキャンダラスな事件のせいで退職を迫られている歴史教師が、生徒たちを前に最後の授業を行う。歴史とは何か、歴史を学ぶ意味は何か。遠い過去から近い過去、そして現在へ、彼の語る物語は自分の家族の秘密にまで及ぶ…。
もしもあのときああしていたら。ああしていなかったら…。そんな後悔を幾つもしながら、現実を見つめて懸命に生きてきたはずなのに、ある日自分より現実的だと信じていた妻のたがが外れていく…。いやそれはもうほんとになんとも恐ろしい。しかし同時に悲劇的な美しさも放っている。

愛と喪失と生と死と善と悪と家族について、あたかも歴史の授業をするように静かに雄弁に語っている。「人は歴史と物語を希求する」という深い信念に基づく回りくどいぐらい詳細で綿密な物語に、「うわっ」「うおお」と声をあげながら夢中になって読んだ。
語られる物語はかなりスキャンダラスだ。しかしそこに至るまでの過程や背景や人間関係が綿密に語られているので、スキャンダラスだけで終わらない。ほんの小さな好奇心、思いあがり、残酷さが引き起こす取り返しのつかない出来事。それは、誰にでも起こりうることなのだ…。

ああ…。つくづく私はこういう風にうねりがあって描写が綿密なこってりしたフィクションが好きなのだと思う。こういう小説に出会いたいから本を読み続けているのだと思う。大満足…。