りつこの読書と落語メモ

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濁った激流にかかる橋

濁った激流にかかる橋

濁った激流にかかる橋

★★★★★

「愛と癒しと殺人に欠けた小説集」がとても良かったので、他の作品も読んでみようと思っていた伊井直行。読み始めて最初は「あれ?こんな小説を書く人だったっけ?なんか印象が違う。これはあんまり好きじゃない…?」だったんだけど、読み進めるうちに「ああ…なんとも言えないけれどなんかいい」にかわり、読み終わって「うあーー。すごくいい!好きだ!!」になった。
思っていたより甘くない。むしろ辛い。苦い。だけど辛いだけじゃない。なんだろう、この小説。独自の美意識とルールに乗っ取って書かれている感じがする。ああ、好きだ。すごく好きだ。

六十年に一度の大逆流がやってくる。激流に分断された市、右岸と左岸をつなぐ異形な橋の上でそれぞれの生が交錯する瞬間―。世界を凝縮した連作長篇小説。

左岸と右岸に町を分断している大きな川がある。川を渡るためにはたった一つの大きな橋を渡るしかないのだが、この橋は交通量も多く治安も悪く大変なことになっている。今の日本のことを描いているんだろうなと思って読んでいると、なんだかどうやら違うらしいのだ。さりげなく異様なのだ。だけどそれは日本のじっとりした「村」や時代のムードに流されやすい今の私たちをデフォルメしているようでもあり、とてもよくわかる感じがするのだ。読んでる側には「わかる」、だけど作者からは突き放されている感じ。なんかこの感じがいいんだなぁ…。
で、その川をめぐる短編が9つなのだが、少しずつ物語は重なっていて、読み終えるとちょっとだけきれいに収まるようになっている。(←微妙な表現だな…) この収まり加減がこれまたとても好みだ。投げっぱなしは好きじゃないけど、「これでもかこれでもか」ときれいに収められるのも嫌なの。

うまく言えないのだけれど、作者のこの独自なストイックさとあふれ出る物語力がとても好きだ。他の作品もどんどん読んでいこうと思う。そしてみんなもっとこの人の小説を読んだほうがいいと思う。