りつこの読書と落語メモ

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インディアナ・インディアナ

インディアナ、インディアナ

インディアナ、インディアナ

★★★★

アメリカ文学最大の人気翻訳家・柴田元幸氏が「これだ」と惚れ込み、ポール・オースター氏が「ずば抜けた才能」と絶賛した本邦初翻訳小説。年老いて病んだひとりの男の人生の、深い喪失感と淡いユーモアがかぎりなく美しい小説。

あー確かに柴田元幸さんが好きそうな小説だなー…(ため息まじり)。とても美しい文章は散文のようでもあり詩のようでもある。叙情的だけれど構成が凝っていて知的な仕掛けがいっぱい。なぜため息まじりかと言うと、最近柴田さんが好んで訳す小説が少し苦手になりつつあるから。
でもこれは好きだった。わからないところや不明瞭なところもあるけれど、愛の喪失とインディアナの美しい風景が読み終わった後も心に残る、とても素敵な小説だった。まるでヴェンダースの映画のような…。ああ、ほんとに映画にしたらいいんじゃないかなぁ。

ノアという男性の過去の記憶、オーパルという女性から彼に送られてきた手紙、ノアの父ヴァージルや母ルービーらの言葉、今は多分老人になっているノアと彼を訪ねて来るマックスとの会話、などが断片的に散りばめられている。想像上の出来事なのか現実にあった出来事なのか、ノアとはいったいどんな人物なのか、オーパルとノア、マックスとノアははどういう関係なのか、何の説明もないままに、ぱらぱらと日記のような詩のような文章が綴られていくので、最初はなんのことなのかよくわからない。
でも読み進めるうちに徐々にいろんなことがわかってくる。

ノアは精神を病んでいる。子どもの頃からいろいろなことが「見えて」しまっていた。その能力を使って一時は保安官の手伝いをしていたこともある。
オーパルも精神を病んでいて、どうやらそういう病院に入れられているらしい。ノアとオーパルは愛し合っていたのだけれど、オーパルの精神病がもとで引き裂かれてしまったらしい。
これだけのことが読んでいるうちに徐々にわかってくる。そして胸に迫ってくるのはノアの喪失感だ。自分の問いにいつも明確に答えてくれていた父を失い(現実的にも精神的にも)、運命の人とも言えるオーパルを失ったことで(彼女を精神病院に収容させたことを彼は一生悔いている)、自分の立つ地面が崩れていく感覚を常に抱いているノア。
そんな彼の喪失感と、インディアンから奪った土地であるインディアナの血塗られた過去と美しさがシンクロして、視覚的にもとても美しい。そう。なぜか映画を見た後のように美しい風景がいつまでも目に焼きついて離れないような不思議な小説なのだ。