りつこの読書と落語メモ

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最後の命

最後の命

最後の命

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うわ。これは驚いた。こんなに若い人(1977年生まれ!)が書いたとは思えない…。深みがあってすごくちゃんとしている(!)小説だ。伝えたいことがきちんとあって、それをいろんな面からきちんと考えて、放りっぱなしにしないで自分なりの答をみつけて、それをきちんとした物語に書いた文学作品だと思う。
私はほんとに日本の作家のことを知らないんだけれど、この人は2005年に芥川賞を受賞しているのだね?いやー知らなかったー。今の芥川賞がどういうことになっているのか全然わからないけれど、受賞したのもうなづけるこの本格感。

芥川賞受賞後、はじめての長篇小説。
(中略)
心の闇、欲望、暴力とセックス、そして人間とは何か。
暴力と人間をテーマに描く芥川賞作家が全精力を傾け、ミステリアスな物語とスピード感あふれる文章で描き出した傑作長篇小説。

「私」と冴木は小学生の頃からの親友だったが、ふとしたことから浮浪者たちが同じ浮浪者で知的障害のある女・「やっちり」をレイプしているところを目撃してしまう。すぐに助けを呼びに行かず結果的に「やっちり」を見殺しにしてしまったことが心の傷となり乗り越えることができない2人は、徐々に社会から外れていく。
ある日「私」のもとに冴木から電話がかかってきて二人は何年ぶりに再会する。突然会おうと言ってきた冴木の真意がわからぬまま再会を果たした「私」は複雑な想いにかられるのだが、やがて事件に巻き込まれ…。

以下はネタバレです。








同じ体験をした「私」と冴木だが、「私」は自傷に走り、冴木は女を傷つける方に走る。再会した時冴木は「連続婦女暴行犯」として指名手配されていた…。自分にとって「私」は唯一自分を見つめてくれる「正しい目」であった、と語る冴木。冴木が残した手記は本当に泣ける…。

世界が終わっても2人で生き残りたかったのに。髭を生やした裕福なおやじになって再会したかったのに。何がいけなかったんだろう。どうして乗り越えられなかったんだろう。いったい自分たちは何をしたというのだろう。こんな自分を抱えてこれから先どうやって生きていけるというのだろうか。

こういうテーマで書かれた小説は他にもあるけれど、この小説の素晴らしいところは「私」が言うこのせりふにあると思う。
「ずっと覚えていなければならないんだよ。人間の命が、厄介だっていうことを」
暗くてつらい小説だ。だけどこの最後の言葉に救われる。作者はこういうテーマで作品を書き続けているようだが、これが彼が長いこと考え続けたことの答えの1つなのであったら、うれしいと思う。