りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

白い果実

白い果実

白い果実

★★★★★

「シャルビューク夫人の肖像」がとても面白かったと書いたら、こちらのほうがもっとすごいよと薦められたので読んでみたのだが。うほほーー。これは…すごい意欲作!!確かにこれを先に読んでいたら、「シャルビューク夫人の肖像」はずいぶん小粒に感じられるかもしれない。

悪夢のような理想形態都市を支配する独裁者の命令を受け、観相官クレイは盗まれた奇跡の白い果実を捜すため属領アナマソビアへと赴く。待ち受けるものは青い鉱石と化す鉱夫たち、奇怪な神を祀る聖教会、そして僻地の町でただひとり観相学を学ぶ美しい娘…世界幻想文学大賞受賞の話題作を山尾悠子の翻訳でおくる。

主人公クレイは、独裁者ビロウの内面を具象化した理想形態市(ウエルビルトシティ)の観相官。観相官というのは人の容貌を観察することでその性格や未来を読むことができる。彼はビロウの命令を受け、幻の「白い果実」を盗んだ犯人を捜しに、辺境の属領アナマソビアに向かう。
観相官、両脚測径器、美薬<純粋なる美>、長いことスパイアという青い塵の中で働き続けた末に自らもスパイアになってしまう鉱夫たち。いきなり目の前に広がる異様な世界観に最初はただただ呆然。「え?どういうこと?」と何度も立ち止まり何度も前に戻りながら読まないと理解できない。
しかも主人公が傲慢きわまりないのだ。自らの力を見せびらかしアナマソビアの人たちを愚弄し暴力も辞さない。うわークレイのことは好きになれそうにないなぁと思いながら読んでいると、いきなり物語は2章で激しく展開していく。そしてクレイも変わっていくのだ。

この小説、一色だけでないところがとても好きだ。暴力的で残酷でありながらユーモアもある。哲学的でもあるけれど、わくわくどきどき冒険小説の一面もある。何が飛び出すか、次はどんな展開になるかわからない。
そして物語の面白さもさることながら、文章がすごくいい。これは原文の文体を損なわないために翻訳をしたあとに山尾悠子が山尾文体に移すことによって出来上がった作品らしい。すごい贅沢な作品なんだな、これは。

結末を読んでもなんだか「???」なのだが、これは三部作の第一作目らしい。第二部は翻訳されているようなので(「記憶の書」)、近いうちに読んでみたいと思う。