りつこの読書と落語メモ

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病める狐

病める狐〈上〉 (創元推理文庫)

病める狐〈上〉 (創元推理文庫)

病める狐〈下〉 (創元推理文庫)

病める狐〈下〉 (創元推理文庫)

★★★★★

ああ…大好き!ミネット・ウォルターズ。読書熱が下がった時でも新刊が出れば必ず買う。「久しぶりに読むのだから確実に面白い小説にしよう」という時に読む。私にとってウォルターズはそんな作家だ。

【CWA最優秀長編賞受賞作】
ドーセット州の寒村シェンステッドに、死と暴力が不穏な空気をもたらしていた。深夜の電話は中傷の言葉をささやき、移動生活者の一団が村内の林を占拠する。それらできごとの背後にいるのは、フォックス・イーヴルと名乗る謎の男。人々の緊張はなおも静かに高まり続け、ついにクリスマスの翌日、事態は予想外の形で大きく動きだす……。『鉄の枷』に続く、2度目のCWA最優秀長編賞受賞作、満を持しての登場。

シェンステッドというさびれた村である晩老婦人が死ぬ。彼女は村の名家シェンステッド・マナーの主ジェームズの妻エイルサ。不審死として警察が捜査を行うが、結局自然死ということで決着がつく。しかし村の女たちの間では夫ジェームズが殺害したのではないかという噂が囁かれ、ジェームズのもとには誹謗中傷の電話が鳴り止まない。そんな中ジェームズは弁護士マーク・アンカートンに依頼して、エリザベスの私生児ナンシーを探し出し接触を試みる。また時を同じくして村の一角の雑木林を移動生活者が占拠する。移動生活者のリーダーはフォックス・イーヴルと名乗る謎の男。

ウォルターズらしく、物語が大きく動き出すのは小説の半分以上が過ぎたあたりから。それまでは一人ひとりの人間を綿密に描く。ジェームズのプライド、喪失感、孤独、恐怖。それを思いやりながらも疑惑も捨てきれないマーク。ジェームズには会わないとぴしゃりと撥ねつけたものの、ジェームズから届いた手紙を読みそこに事件の匂いをかぎつけ駆けつけるナンシー。夫への不満や自分たちが省みらないことを恨みに思い、誹謗中傷の電話をかけ続ける女たち。不倫を重ねる夫。父親フォックスにおびえる息子ウルフィー。
こういうところがいかにもウォルターズで、だから私はウォルターズが好きなのだ。「ミステリー」だけれど、そこに描かれている人間がただの犯人と被害者だけじゃない。幾重にも重なった人の悪意と好意が入り乱れて、ぞくっと怖くなったり、ほろっときたり。読んでいてものすごく心をゆさぶられる。

ミステリーには限界があるんじゃないかと時々思うことがある。結局いつも人が殺されて謎を追って犯人が明らかになる。特に解決していくところは、物語が広がっていくというよりは収束していく感じがあって、最初のうちはわくわくして読んでいても最後まで読むとたいてい「うーん…」とちょっとがっかりする。「ご都合主義」を感じてしまうことも多い。
でもウォルターズを読むと(特に最近の作品は)、ミステリーの枠を超えているような限界突破に挑んでいるように感じられて、なんだかとってもうれしくなっちゃうのだ。