りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

チルドレン

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

★★★★

前から気になっていて初めて読んだ伊坂幸太郎
カラマーゾフの兄弟」を汗をかきかきメモをとりとりヒーヒー言いながら読んだ後だけに、読みやすいっ!なんて読みやすいんだ!というのがまず一番の感想。
人気があるのもうなづけるなぁ。登場人物がみな味があって魅力的だし、鼻につくようなあざとさもないし、それでいてちくっときてうるっときてほわっとくる。(←どういう感想じゃ…)うん、好き好きこの人。きっと好きになるんじゃないかなという予感があったんだけど、やっぱり好きだったよ。

こういう奇跡もあるんじゃないか?
まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き。ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「五つの奇跡」の物語。
吉川英治文学新人賞作家、会心の受賞第1作!
短編集のふりをした長編小説です。帯のどこかに“短編集”とあっても信じないでください。

短編が5つ入っているのだが、実はこれ連作で全部を読むと1つにつながるというつくりになっている。時系列はばらばらで語り手も変わるんだけど、出てくる人物が重なっていて、前の作品で「?」となったところが次の作品で明らかになったり、「ああ、だから…なのか」と納得できたり。こういう展開の仕方って好きだ。

飄々としていて傍若無人のようでいて本質をとらえているようでどこかちゃらんぽらんのような陣内。彼と同級生の鴨居。この二人が閉店間際の銀行で銀行強盗に遭ってしまう「バンク」。ここで盲目の青年永瀬との出会いがあり、永瀬が素人探偵さながら事件の謎を解く。(がその推理はこの二人にしか披露されない。)
「チルドレン」「チルドレン2」は「バンク」から12年が過ぎ陣内が家裁調査官になってからの物語。語り手は同じく家裁調査官の武藤。家裁調査官という職業の甘くなさが描かれているけれど、それもしつこくなくあざとくなく描かれていて、読んでいてとても清清しい。これが重松清だったらこうはいかないだろう。っていやあの重松清をけなしているわけじゃないんだけどね。むしろ好きなんだけどね。いやほんとほんと。
盲目の青年永瀬が語るのが「レトリーバー」と「イン」。この5作の中で最後に収められた「イン」が一番好きだ。とてもいい。永瀬自身がとても魅力的で素敵なのだが、永瀬の目を通して描かれた陣内がとてもいい。「イン」を読むまでは、読みやすくて爽やかで好きだけどでもちょっと物足りないかな…とちらっと思ったんだけど、これを読んでこの5作がきれいにおさまった感じがしてものすごく好きだーと思った。

日本の作家が書いた作品はあまりにも身近でわかりすぎるからなんとなく読む気がしなかった。読みやすくてさらさらと読めてしまうと、ドラマを見ているのとあまりかわりがないような感じがしてしまうんだなぁ…。読みにくい本のほうが優れている、なんてことを言うつもりはないのだが、読みやすくてさらさら読んだ小説って記憶に残らないことが多いような気がするのだ。あくまでも私の場合だけど。
なんだか読みにくくて引っかかる感じ、物語がどう転ぶかわからない感じ、それが好きで多分だから私は翻訳本が好きなんだと思う。翻訳本はあまり読む気がしないという人は逆にその引っかかる感じが好きではないのだろうな。

でも日本人なんだからほんとは日本人の書いた小説をもっと読むべきなんだよな。いや「読むべき」なんていうのはおかしいんだけど、やはり読み方と味わい方がそもそも翻訳本と日本人の書いた小説では違うと思うので、そういう読み方もしてみたいな、と思う今日この頃。
伊坂幸太郎はとても好みに合っていたので他の作品もどんどん読んでいこうと思う。