りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

双生児

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

★★★★★

私がいつも読んでいる読書系のブログで評価が真っ二つに分かれていたこの作品。面白い!最高!傑作!という声と、なんか腑に落ちない、期待して読んだけど感動できなかった、苦手なタイプの小説という声と。
自分はどっちだろう?でも多分「面白い」のハードルの低い私のことだから、おそらく「面白い」だろうと期待をこめつつ読んでみた。

プラチナ・ファンタジイ〉〈英国SF協会賞/クラーク賞受賞〉第二次大戦の飛行兵J・L・ソウヤーの回想録に書かれていたのは? ジャックとジョー。――同じイニシャルを持つ二人の人生を、虚実入り乱れた語りで描く大作

私は多分100%理解しきれてないな…この小説。注意深い読者じゃないからなぁ。さりげなく置かれた鍵とか謎とかに気づかず、どかどかばたばたと物語の中を駆け抜けて行った。どたばた走りながら、「あれ?あれ?」と翻弄されながら、同じところをぐるぐる回ったり「なんか変だぞーー?」と首をひねりつつ、気がついたら出口にたどり着いていた。そんな感じ。

でも好きなんだよなー。プリーストの小説のうねりと歪みが、たまらなく好き。理解しきれてないけど、その中に入ってぐでんぐでんにされるのがすごく気持ちいい。この小説も読みながら何度も「ああ、面白い!」とつぶやいてしまった。

一卵性双生児ジャックとジョーは、第二次世界大戦を境に全く別の道を歩くようになる。ジャックはパイロットとして空軍に入り戦線の最前線に立ち、一方ジョーは良心的兵役拒否者として赤十字に入る。物語は大きく分けてジャックが語る章とジョーが語る章からなるのだが、2人の語る物語がどこかずれている。そのずれは戦争の行方にまでおよび、2人の語る物語だけではなく、物語の間に挿入されている歴史書にもあらわれ、読者はいっそう頭が混乱していくのだ。

以下ネタバレです。










ジャックの手記は、1936年に五輪出場のために兄弟揃ってベルリンへと向かう場面から始まり、いきなり5年後のジャックが搭乗する爆撃機が直撃弾を食らって墜落するシーン、救出され当時の出来事を思い出していくシーンと、二つの時間を行ったり来たりする。特にジャックは墜落時の記憶が欠落していたため、何度も思い出そうと試みる。そのため同じシーンが何度も語られ、そのたびに少し細部が変わって行き、読んでいる側は「あれ?」と首をひねることになる。なんかさっきもこのシーンあったよね?でもなんかちょっと違う?どっちが本当?もしかして作者は私をだまそうとしているの?と。

それまで一心同体のようだったジョーとの間に徐々に亀裂が生じていき、心を奪われていたビルギットがジョーと結婚したことでさらにその亀裂が深まり、それらを振り切るようにして空軍に入隊するくだりなどは、とてもわかりやすく感情移入もしやすく自分はジャックのことは全て理解できた気持ちになるのだが…。

その後に挿入されたサム・レヴィ(墜落した飛行機にジャックと一緒に乗っていた人物)の手紙で度肝を抜かれる。墜落した時に生き残ったのは自分だけであったとレヴィは語っているのだ!
え?じゃあジャックの手記は何だったの?いやでもたしかにジャックの手記に「搭乗員が生き残る平均出撃回数はわずか8回」とあるのだ。なのに自分は「30回出撃している」「自分が教えている若い新兵たちの大半は、すぐに死んでしまうことをわたしは知っていたのだ」と。
ではなぜジャックは死ななかったのか?実は死んでいたのか?

その答えは出ないまま、ジョーの手記にうつる。ジャックの手記を読んでいる時はどこまでも謎であったジョーの側の物語がここで明らかになり、時には重なり「ジャックから見たジョーはこうだったのか」「ああ、そういうことだったのか」とわかったような気になるのだが。途中でジョーが語る物語が不鮮明になってきたり、そして歴史自体がジャックが語っていた歴史と明らかに異なってくるのだ。え?ジャックの手記ではジョーが死んだことを知らされる場面があったのに、ジョーの手記では死んでいくのはジャック?

最初に登場する作家のスチュワートと彼にジャックの手記を渡したアンジェラの名前が意外なところで出てきて、ようやく気づいた。これはもしかしてパラレルワールドなのか?気づいた時には(遅いって…)物語は終わってたよ…。

もしこの物語がスチュワートを中心に語られていたら、スチュワートが全ての謎の答えを明らかにしてくれたのかもしれない。しかしこの物語はそうではないから、最後まではっきりした答えやオチが明らかにされないまま宙に浮いたまま終わってしまう。だからちょっと「腑に落ちない」。プリーストの小説って結構そういうものが多いから、好きじゃない人は好きじゃないかもなーと思う。ある意味ちょっとずるい作家という気がしている。でも私はプリーストに翻弄されるのがたまらなく好きなので、新作が出たら今度はどういう風にだましてくれるのかなぁと期待して必ず買って読むつもり。