りつこの読書と落語メモ

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日の名残り

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

★★★★★

「わたしを離さないで」が素晴らしくよかったから、全部読んでみようと思っているカズオ・イシグロ。前から「読んでみようか」と手にとっては、なんとなく気が進まなくて本棚に戻していたこの本。
いやほんとに読んだのが今でよかった。もともと読むスピードは速いのだが、時々物語を求めるあまり「もっともっと」とさらにスピードアップしてしまう時があって、そんな時に読んだら多分この小説の良さを十分味わうことはできなかったかもしれない。これは丁寧にゆっくり読むべき本だ。

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞ブッカー賞受賞作

人生の夕暮れ時にさしかかり、今までの自分の人生を振り返り抱く想い。仕事に対する誇りやボタンを掛け違えてしまったことへの後悔と寂しさ…。でもノスタルジックなだけではなく、ユーモアも漂っていて、なんかちょっとおかしい。

とくに後半がいいなぁ…。胸の中に大事にしまっておきたいような文章がぽつりぽつりとあって、ひたひたと心の中にしみこんでくる。読み終わって気がつくとじんわりと涙が出ていることに気づく。そんな作品。
「わたしを離さないで」がひんやりした読後感なら、こちらはほんのり暖かくなるような読後感。そして最後まで読み終わってこのタイトルの意味がしみじみわかるのだ…。