りつこの読書と落語メモ

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観光

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)

★★★★★

やるじゃん!おぎやはぎ
…ってくだらなくてスマン…。いやあの表紙の作者の顔がちょっとおぎやはぎのやはぎに、ちょっとだけ似て蝶…。ちょっとね、ちょっと…。作者はタイ系のアメリカ人。翻訳は大好きな古屋美登里さんだ。

これは最近読んだ短編集の中ではほんとにピカ一だ。結構話題にもなっていたみたいだけど、確かにすごくいい。こんな小説を書ける作家っていそうでいなかったんじゃないかと思う。短編だけどとても深い。うーん、ほんとに深いんだなぁ。薄っぺらくない。文学だなぁって感じ。って、なんかおバカな感想だなぁ…とほほ。

どこからが文学でどこからが単なる娯楽なのかということをよく考えるんだけど、自分の心の奥底に深く響くものがあったとき、それから普遍的な何かを深く考えさせられた時に、「文学ってこういうことかな」と思う。だから私の基準からいうと、これは間違いなく文学なのだ。

アメリカ人の父とタイ人の母をもつ少年が、南国に遊びにやってくる「ガイジン」を時に辛辣に、時に甘酸っぱく見つめる姿を描いた「ガイジン」。親友と一緒に徴兵の抽選会に行く一日を描いた「徴兵の日」。カンボジアの難民の少女との触れ合いと苦い現実を描いた「プリシラ」。どれも情景が目に浮かんできて、思わずぐっときて涙がぽろっと出てしまうようなすてきな物語。

特に好きだったのは、失明しかけている母と最初で最後の旅行に出かける「観光」。タイ人の女性と結婚した息子と暮らすためにタイにやってきたアメリカ人の老人を描いた「こんなところで死にたくない」。破滅に向かっていく父親を娘の目から描いた「闘鶏士」。とても共感できてでも意外性もあってとてもよかった…。

著者は現在長編を執筆中とのこと。ぜひぜひそれも読んでみたい。