りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

大統領の最後の恋

大統領の最後の恋 (新潮クレスト・ブックス)

大統領の最後の恋 (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

「ペンギンの憂鬱」がとっても良かったので、新刊が出たと聞いて絶対読もうと思っていたアンドレイ・クルコフの新作。
このタイトルにこの表紙。かーっ、こりゃもう読まないわけにはいかない!
しかし持って歩くのをためらわせるこの分厚さ…。新潮クレストはハードカバーとは思えないぐらい軽量なところもお気に入りなんだけど、さすがにこれだけの厚みがあると、重いよ〜。

しかも読みづらいんだ、これが。

物語は3つの時系列で構成されていて、
1.旧ソ連時代末期の1975年
2.ウクライナ独立後の2002年
3.近未来の2011年
この3つの時代の物語が交代で語られていく。
主人公である大統領ブーニンの、1.ふらふらしてる何者でもない時代、2.副大統領時代、3.大統領時代(これが「現在」)の物語なんだけれど、とにかく最初は何がなんだかよくわからないし、感情移入もしづらい。
特に3の時代は、もともと政治の話が苦手な私にはとっつきづらいったらない。

あーこりゃ久々の挫折本かー?!なんて思って読んでいたのだが、1/5ぐらい読み進んだあたりで、俄然面白くなってきた。

3つの時代を交互に読むというのにもだんだん身体が慣れてきて、過去が現在に近づいてくるのが面白くてしょうがない。
そして、なんで1.の時にはそこらへんのゴロツキみたいだったのに、大統領になったんだ?2.では2度目の結婚をして幸せな結婚生活を送っているようなのに、なぜ今はこんなに孤独なのだ? そんな謎解きも楽しみつつ、3では政治的な陰謀に巻き込まれたりして、だんだんどの時代も目が離せなくなってくる。

物語はとても淡々としているし、主人公も決して魅力たっぷりとは言えないし、ハートウォーミングな話じゃないのに、なんでこんなにわくわくするんだろう?なんてクビをひねりながらも、もう後半は面白くて面白くて、仕事中もこっそりのぞきたい気持ちをおさえきれないぐらい。この3つの時代が加速をつけて一つにつながっていくのが快感なのだ。

そしてラストがもう…たまらないよ、これは。ここまで淡々とほとんど感情を排していたようなこの小説が、こんなふうに…。くうううう。
なんてうまい作家なんだ。こんな作家、日本にいる?こんな感情経験、本以外でできる?まさに読書の悦びってこういうところにあるなぁ…私の場合は。

本を広げた瞬間、広がる宇宙。そんな小説が私は大好きだ。