りつこの読書と落語メモ

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イラクサ

イラクサ (新潮クレスト・ブックス)

イラクサ (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

なんとも味わい深い独特の世界を持った短編集だ。この感じはいったいどう表現したらいいんだろう。
作者のアリスマンローはカナダの作家。カナダといえば、アリステア・マクラウド。確かにちょっと共通するものを感じる。無口な感じというか、ずっしり重い感じがして。

一話目の「恋占い」でまずは度肝を抜かれる。
シニカルなコメディといった作品で、どことなくミュリエルスパークのようなテネシーウィリアムズのような?
うわ、なんだこりゃ?こういう作品ぞろいなのかと思いきや、二話目からはまた全然違っていて、どういう作家なんだろう?と戸惑いながら、気が付くと夢中になっている、みたいな感じ。

三話目の「家に伝わる家具」。
都会に暮らしライターの仕事をしている叔母アルフリーダは憧れの存在だった。でも自分が少女から大人へ成長し、同じように都会に出て暮らすうちに、かつての憧れの対象だったアルフリーダが蔑みの対象になる。
アルフリーダの放った一言がきっかけとなって、そのフレーズを組み込んだ物語を書き、そのことがアルフリーダの怒りを買い、その後再会を果たすことなく、自分の父親の葬儀の席で彼女の意外な秘密を知る。
主人公がアルフリーダの家からの帰り道、自分が書きたいものについて考え、それが私が送りたい人生なのだと確信を持つところに、なんとなく作者の素顔が垣間見れるような気がした。

表題作の「イラクサ」もいい。
忘れられない幼馴染の男の子との30年ぶりの再会。甘い思い出とお互い抱えている重い過去と。起きた出来事と封印した出来事と。
いやぁ…大人の物語だなぁ。

そして私が好きだったのは「記憶に残っていること」。
たった一度の情事を宝物のように抱えて生きていく女性。彼女のどうしようもないロマンティックと狡猾さはすごくリアルで理解できるなぁ…。
同じようにこの夫のずるさと優しさはものすごくリアルで理解できるなぁと思ったのが「クマが山を越えてきた」。

心の奥底にある美しいものや醜いものを静かな語り口で鋭くあたたかく語る。これはものすごい作家なのでは。
まだほとんど翻訳されていないようなので、この本をきっかけに次々翻訳されるといいなぁ。