りつこの読書と落語メモ

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ハサミを持って突っ走る

ハサミを持って突っ走る

ハサミを持って突っ走る

★★★★★

おもしろかったー!!「自伝」ってことなんだけど、フィクションでもノンフィクションでもそんなことはたいした問題じゃないよ。

かなり悲惨で過酷な物語なんだけど、底抜けに面白い。
ああ、いい人だなぁと思っていると、どかーんと裏切られる。ハートフルなのかと思っていると冷水を浴びせられ、うわもう最低だと思っていると案外そんなことないんじゃないとほろりとさせられ。とにかく一筋縄ではいかない物語なのだ。
出てくる人たちも本当に一筋縄ではいかない人たちで、ええ?こんなことほんとにあるの?奇天烈すぎない?できすぎじゃない?って感想を持つ人もいると思うけれど、だからこそ私はとてもリアルに感じる。多分ほとんどあったままに描いているんじゃないかと私は思っている。

このごちゃごちゃ感とか閉塞感とか絶望感って、「家庭にモンダイのある子ども」には結構なじみ深いものでもあるんじゃないかと思う。
もちろん私はここまでのことはなかったし、ゲイでもないし、母親が精神病でもないし、フィンチ先生の家のようなすさまじい家に住んでいたわけじゃないんだけど、それでもなんかものすごく懐かしかった、この感じ。そこから脱したい一心で生きてきて、それが今の私なんだと思うんだけど、でもこれはこれで悪くなかったんだよなと思っている。多分オーガスティン少年だった作者も今そんな風に思っているんじゃないかな。だから悲惨だけどこんなにもおかしい小説になったんだと思う。

主人公のオーガスティンは、大学の教授でアル中の父親と詩人で精神的に病んでいる母親と3人で暮らしているのだが、夫婦関係は破綻していて両親は精神科医フィンチ先生のところに通って治療を受けている。オーガスティンに対して全く愛情を示さない父親と、「愛しているわ」と言いながらやはり親らしい愛情を与えることができない母親。

二人は結局離婚し、オーガスティンはフィンチ先生の家に一人預けられるのが、この家がまた非常に強烈。ピンクのあばら家で、子どもも多い上に患者(精神病を患っている)も住んでいて、無法地帯なのだ。あらゆるものが不潔で、みんながちょっとずつずれていて異常なのだ。

とにかくこのフィンチ先生が強烈なんだ。「破天荒だけど愛すべき人物」とはとても言えない…。でもやっぱり魅力があるし、ものすごくいいなぁと思う部分もあるし…それだけに母親から明かされる真実(?かどうかは最後までわからない。なぜなら母親もかなり「狂っている」のだ)の衝撃は…。
でも現実ってこういうもんだよな、とも思う。きれいに善人/悪人と切り分けられないことが多い。好きだった人に裏切られたり、嫌いだった人に救われたり、友達が敵になったり、尊敬していた人に落胆させられたり。

それでも生きていくしかないのだ。先に進んでいくしかないのだ。
どっちに転んでいくかわからない。でもま、いい方向でも悪い方向でも行ってみるか、というラストが私はとても好きだ。