りつこの読書と落語メモ

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眠れるラプンツェル

眠れるラプンツェル (幻冬舎文庫)

眠れるラプンツェル (幻冬舎文庫)

★★★★★

短編集。
表題作になった「プラナリア」とは、小川に住んでいて、切ってもまたそこから再生してしまうというナメクジみたいな無害な生き物なのだそうだ。

春香は、来世はプラナリアに生まれ変わりたいと公言している。
ある日突然乳がんになり、手術をして完治したと言われたのだが、なんだか仕事をする気になれず、ぷらぷらしている。
手術までは心配してやさしくしてくれていた両親も恋人も、「もう治ったのだからいいだろう」というような態度で、彼女は自分が不当に扱われているような、取り残されたような気持ちでいる。

突然癌になって、乳房を切られて、完治したと言われるけれど後遺症があって頭痛がしたり吐き気がしたり具合が悪くて、再発もあるかもしれないと軽く言われ、しかしまわりには「もうそろそろ普通にしろよ」としたり顔で言われ、病院に行けば待たされ‥
自分だけが不当な目にあっている、癌なんて「なり損だ」とおもう、その気持ちはとてもリアルだ。

「自分が癌だったということを今度友達に言ったら別れるからな」と恋人に言われているのに、楽しいお酒の席でも、言わずにいられない。
それが自分のアイデンティティだと言い切る春香の気持ちは痛いほどわかる。

憧れていた同じ病院に入院していた女性と再会し、ようやくバイトを始めるのだが、ここでも彼女は違和感や疎外感を感じずにはいられない。
大病をした人にどういう態度で接すればいいのか。
自分が実際に同じ立場になった時、どんな言葉に傷つき、どんな言葉に慰められるのか。
考えさせられる作品だった。

私が一番好きだったのは、「ネイキッド」
夫に離婚され、何もしないで家に閉じこもっている泉水。
テディベアを作ったり、編みぐるみをしたり、漫画喫茶に入り浸ったり。
それまでしゃかりきに生きていた自分を否定するかのように、退屈を生きている。

仕事もせず、電化製品が壊れても修理もせず、しかしそんな生活に何も感じず生きている。
そんな彼女が、前の職場の後輩と出会って、少しずつ眠りから目覚めていく‥。

何も感じずに生きていたのではなく、あまりにも悲しかったから何も感じないように全てを遮断して生きていたのだろう。
最後のシーンが私は大好きだなー。
読みながら私も、一緒に泣いてしまった。