りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

アフリカの日々/やし酒飲み

アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8)

アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8)

★★★★★

デンマークに生まれ、ケニアの広大なコーヒー農園を営んだ女性作家による、アフリカの人・大地・動物との交歓の物語と、ヨルバ族の英語作家が森の魔術的世界を描き、アフリカ初の本格小説として絶讃された奇想天外な冒険譚。

「アフリカの日々」
すみれ色の青空と澄みきった大気、遠くに揺らぐ花のようなキリンたち、作物を食べつくすイナゴの群れ、鉄のごときバッファロー。風と合体し、土地の色と匂いに同化したものだけが、ここでは生きのびられる。北欧の高貴な魂によって綴られる、大地と動物と人間との豊かな交歓。

「やし酒飲み」
わたしは、10になった子どもの頃から、やし酒飲みだった。頭ガイ骨だけの紳士、不帰の天の町、白い木の誠実な母、死者の町……。レーモン・クノーT・S・エリオットの絶賛を浴びて各国語に翻訳された、アフリカ発世界文学の金字塔。

「アフリカの日々」

素晴らしかった。淡々と綴られているのに胸がしめつけらる。

アフリカの広大な風景と動物たち、そして我々とは価値観や道徳観が違うアフリカの人たち。
圧倒されるような自然の風景。群れをなす動物たちの美しさ。ここでは時の流れがまったく違うのだろうということが実感できる。本を読みながらそんな空気を感じることができる幸せ。
普段はストーリーに身をまかせて集中してがーっと読むのが好きな私だけれど、この物語は描写を楽しみながらゆっくり読んだ。いつまでもこの世界に浸っていたくて、残りのページが少なくなっていくのが寂しかった。

著者は19年間、アフリカで農園を経営した。
アフリカを離れて年を経るほどにそこで過ごした日々が彼女の内部で輝きを放ち彼女という人間に深く刻まれていく。
この本はそんな日々を振り返る体験記でもありルポでもあり自叙伝でもある。

白人である著者とそこで働く現地の人たちとは、支配する者と支配される者、侵略する者と奪われた者という関係である。
歴史的な背景を背負いながらも、著者と現地の人たちとは確かな絆で結ばれる。
お互いの違いを尊重しあいながらきちんと心を通わせられる作者の視線があるからこそ、読んでいてこんなにも深く感動できたのだろう。

私の人生よ、汝われを祝せずば去らしめず。しかし、祝福してくれたあとは、私はこころよく別れることにしよう。

詩というものの性質がわかるようになると、若者たちはこう言って私をうながした。「もっと言ってみて下さいよ。雨みたいに言葉を出して下タさい。」どうして若者たちが詩を雨のようだと感じたのか、私にはわからない。しかしともかくそれは、拍手喝采するようなよろこびと期待とつながりをもってはいたのだろう。アフリカでは、雨というものは常に請い求められ、よろこび迎えられるものにちがいないのだから。

書いてあることと同じくらい書いていないことにも意味があるという解説に唸りつつ…素晴らしかった。何度も読み返したい。