りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

いるいないみらい

 

いるいないみらい

いるいないみらい

  • 作者:窪 美澄
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/06/28
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

未来の選択に直面した人たちの、切なくもあたたかな物語。

話題作『トリニティ』『じっと手を見る』著者最新作!

いつかは欲しい、でもそれがいつなのか、わからない。

夫と二人の快適な生活に満足していた知佳(35歳)。しかし妹の出産を機に、彼の様子が変わってきて……「1DKとメロンパン」
妊活を始めて4カ月が過ぎた。時間がないとあせる妻に対し、夫の睦生(34歳)は……「無花果のレジデンス」
独身OLの茂斗子(36歳)は、単身者しか入居していないはずのマンションで子どもの泣き声を聞いて……「私は子どもが大嫌い」

子どもがいてもいなくても……毎日を懸命に生きるすべての人へ、
そっと手を差し伸べてくれる、5つの物語。

 結婚したからといって必ず子どもができるわけではないし、望んでいてもできない場合もあるし、また子どもを作らないという選択もあれば、養子をとるという選択もある。

夫と妻の考えが必ずしも一致するケースばかりではないとは思うけれど、お互いに歩み寄って理解しあえたらいいよね。

特に好きだったのが最終話の「金木犀のベランダ」。
お互いを思いあって暮らしていけたら…今が幸せなら、恵まれていなかった子ども時代なんてただの過去。そのことで劣等感を持つ必要なんかない。
最後まで読んで涙がぽろり

とてもよかった。

小んぶにだっこ

1/6(月)、落語協会で行われた「小んぶにだっこ」に行ってきた。
 
・小んぶ「初天神
~仲入り~
・小んぶ「明烏
 
小んぶさん「初天神
あけましておめでとうございます、と小んぶさん。
私はお正月だからって何か想いを新たにしたりするような人間じゃないんですがお客様はきっとそうじゃないでしょう。お正月という気分でいらしているでしょう。
ですから私…こちらに花を活けさせていただきました。
 
この日、黒門亭の高座の横にお正月らしく大きなお花が活けてあったんだど、しれっとそう言う小んぶさんに大笑い。
「んなわけないですけどね。今日来てみたらこんなものが置いてあってですね…うわっとびっくりして、とりあえず動かしたりして何か外れたりしたら戻せないですから…触らないように気をつけて高座を作らないといけなくて…正直迷惑でした」。
 
それから一昨年の暮れから新年にかけてはインフルエンザにかかってしまったため、入門以来初めて師匠のお宅に伺わずに自宅で過ごすお正月を懐かしく思い出しつつ…喬太郎師匠のスズナリに出させてもらった時の話。
やなぎさん、小太郎さん、小んぶさんの3人が毎日交代で出させてもらって、それも喬太郎師匠の弟弟子への愛。熱い人なんですよ、あの方は。
スズナリだってね、兄さんだったらもっと大きなハコでもいいところを、あのハコが好きだから3年前から丸々1か月押さえておいて、自分の好きな人を日替わりでゲストに呼んで自分の大好きな落語をやるという…それをお客さんが頑張ってチケットを取って見に来るっていう…すごい空間ですよ。
そこに私のように何の熱さもない人間が出させてもらってね…。
で、小太郎兄さんが…あの人はしごく真っ当な人間ですから。「兄さんに恩返しがしたい」と言い出してね…3人でお金出し合って帯をね…帯を選べる券を贈ることにしたんですよ。千秋楽に。
で、小太郎兄さんと話し合って、打ち上げの時に渡そう、と。
人がいるところだと兄さんも気づまりだろうから、兄さんがタバコ吸いに出たところをねらって二人で行ってね…渡したんですよ。
そうしたら兄さんがね「おまえら!こんなこと!!」ってね。第一声が怒った声だったんで、あちゃーーしくじったーって思ったんですけど、あたしは。
そしたら兄さんの目から涙がぽろりって。
それを見て小太郎兄さんも泣いちゃって。
おれ一人、ええええ?なに?ってなって。ほら、心がないから。おれ。いやでもこれはまずい、二人が泣いてるからここは泣くところだ!って。それぐらいはねもう40になってるから経験則としてね。
でも泣け!泣け!って思っても全然泣けない。で、そうなると人間どういう行動に出るかって言うと、…笑っちゃうんですね。あはははははー。
もう明らか、サイコパスですよ、あたし。
 
っていう話をね、この間連雀亭に出た時にしたんです。まくらで。
小太郎兄さんもその日出番があって楽屋にいたんですけど。
で、帰りに二人でカレー食ったんですけど、小太郎兄さんが無言なんです。あれ?なんか怒ってる?って思いながらももう10年の付き合いですから。ま、そういう日もあるよねーなんて思って、くだらない話を一人でぱーぱーしてたんです。
そしたら兄さんがポツリと言ったんです。「あーーおれもサイコパスになりてぇなぁ」。
 
10年の付き合いですから、これが嫌味じゃないってわかるんです。小太郎兄さんって本気でサイコパスになりたがってるんです。それを知ってますから…「いや、兄さん、サイコパスですよ。立派な」って言ったんです。そしたら「俺のは…なりたいと思ってわざとやってるだけ…。お前のは本物だもん。かなわねぇよ」。
そう言われました。
 
…ぶわはははは!!!おかしい!!
そしてそんなまくらの後に「私…こうやって日常にあったことをまくらで話すんですけど、ここから落語に入りづらいです。もっと江戸前なまくらを振ってすっと噺に入ればいいんでしょうけど。それができないから、まくらから噺に入った時、笑いが起きちゃうんですけど、これ全然いらない笑いですから!」
そういったあとに「小児は白き糸のごとし…」と言ったので、大爆笑!ごめんごめん、いらない笑いって言ってたのにどうしても我慢できなかった!
「今のは…私のせいだけじゃないですよ。お客さんの責任も半分ぐらい…」
…ごめんなさい!!
「……あの…初天神やります!」
 
…ぶわはははは。なにその宣言。もうおかしすぎる。
そんな宣言からの「初天神」。
小んぶさんらしくひねりのきいた「初天神」。
言うこときかなかったら川におっぽりこんじゃうぞと言われた金ちゃんが「え?かっぱ?…でもほんとにかっぱが出てきてかじられてたら父ちゃん助けてくれる?」。
「…あ、ああ…助けるよ!もちろん助けるよ!」
飴も買おうとするとお金が足りなくて金ちゃんが自分で出したり…。普通になったり普通じゃなくなったりのバランスが絶妙でめちゃくちゃ楽しい「初天神」だった。
 
小んぶさん「明烏
今度はまくらなしで「 明烏」。
こちらはとてもちゃんとした「 明烏」だった。本寸法。
源兵衛と太助のコンビもいいし、若旦那の純情な感じもチャーミング。
小んぶさんが何年か後に真打に昇進した時、やるのかもなぁ…なんて思いながら聴いていた。
ちょっと照れがあったかな。でもそこも小んぶさんらしくていいな。
 

アタラクシア

 

アタラクシア

アタラクシア

 

 ★★★★

擦り切れた愛。暴力の気配。果てのない仕事。そして、新たな恋。ままならない結婚生活に救いを求めてもがく男と女―。芥川賞から15年。危険で圧倒的な金原ひとみの最新長編。 

美しさを武器に刹那的に生きてるように見える由依。由依に夫がいることを知りながら会い続ける瑛人。浮気を重ねる夫と反抗的な息子、文句ばかりの母に苛立つ英美。DV夫から離れられず息子を心配しながらも不倫を重ねる真奈美。そして真奈美からは優しい愛人に見えた荒木も…。

恋愛して結婚して幸せに暮らしました、めでたしめでたしではない。結婚はゴールではないし、お互いの事情も変われば関係性も変わっていく。

自分のその時の感情で突っ走ってしまったり、どうにかしなければと思いながらも身動きができなくなったり、自分で作った家族なのに何もかも放り出して逃げたくなったり。人間というのはほんとに弱くて愚かなものだな。

この内容でなぜタイトルが「アタラクシア」なのか。考えてしまう。

梶原いろは亭 新春特別興行

1/4(土)、梶原いろは亭 新春特別興行に行ってきた。


・幸七「やかん」
・鳳月「代書屋」
岡大介 カンカラ三味線
・楽之介「藪入り」
~仲入り~
・橋蔵「馬のす」
・扇「松竹梅」
・だるま食堂
・圓馬「妾馬」


鳳月さん「代書屋」
鳳楽師匠のお弟子さんとのこと。
一門で忘年会をやったときのこと。酔ってくると師匠の小言が始まるんだけど、なかなか弟子の名前が出てこない。「おい、お前、そうだ、鳳笑…じゃない、鳳志…じゃない、鳳月!」
何度かやった後に師匠が「全くもうみんな鳳が付いてわかりにくい!」
…いやいや、師匠がつけた名前じゃないですか、には笑った。

そんなまくらから「代書屋」。好きな噺じゃないんだけど、とっても面白かった。代書屋さんがそんなに嫌味じゃないからかな。頼みに来た男がぴかーっと明るくて自信満々で楽しい。笑った笑った。


岡大介さん カンカラ三味線
二回目かな。若いのに昭和歌謡や昔の演歌(こぶしじゃなくて演説しながら歌う方)への愛がたっぷり。旦那のおとうさんが聴いたら喜びそうだな、と思いながら聴いてた。


だるま食堂
こちらも二回目。
あの狭いハコで目の前で見ると迫力満点!すごく楽しくてノリノリになって「ウーサンバ!」とこぶしを振り上げるの楽しかった!


圓馬師匠「妾馬」
おめでたくてきれいでいいなぁ…。
八五郎が口はぞんざいだけど優しくて気が良くて気持ちのいい人物。
酔って歌うのも色っぽくてきれいで素敵だった。
落語初めが圓馬師匠って嬉しい~。…ほんとの落語初めは幸七さんだけど(笑)。

2019年・年間ベスト

2019年、読んだ本が154冊、行った演芸が196回。
昨年が読んだ本が129冊、行った演芸が249回だったので、本が増えて演芸が減ったな。って196回も落語(講談、活弁浪曲含め)行ってるのかー。
昨年から始めた誰の高座を何回見てるか、まとめ。


1位 さん助 96回
2位 小三治 23回
3位 雲助 21回
4位 圓馬 19回
4位 凌鶴 19回
5位 小んぶ 16回
6位 圓橘 15回
7位 頼光 14回
8位 はん治 13回
8位 夏丸 13回
9位 琴調 12回
9位 きく麿 12回
9位 さん喬 12回
10位 小はぜ 11回 

ちょっ…。さん助96回って…。2018年が65回でそれにも驚いたのにさらに増えたのがすごすぎる。「楽屋半帖」が毎回3、4席と高座数が多いことと、鈴本のトリに通ったことが勝因(勝ったのか?)。
でも今年はもう少し減りそうだなー。ドッポも終わっちゃったし、「楽屋半帖」もあと何回かで終わるし。

2位が小三治師匠で、だいたい毎年これぐらいの高座を見ているんだけど、それって結構すごいこと。というのは小三治師匠の会はチケット取るのが大変なのだ。逆に言うとチケット取るために頑張ってるのは小三治師匠ぐらい、かな。

雲助師匠は落語を見始めたときから大好きな師匠だけど、やっぱり会に行かないと!という気持ちを新たにまた見に行き始め、行ってがっかりすることがまったくなかったので今年も積極的に見に行きたい。

講談、活弁を見に行くようになって、また世界が広がったなー。今年もいろいろ見に行こう!おー!

で、年間ベスト。まずは海外編。

 

1位 フィフティ・ピープル (チョン・セラン)

フィフティ・ピープル (となりの国のものがたり1)

フィフティ・ピープル (となりの国のものがたり1)

 

年間ベスト、毎回順位を付けるのが大変。
こうして読んだ本の感想を律儀にアップしているけど基本的に私の場合「面白い!」「好き!」「ん?なんかよくわかんない」というような、ざっくりした読み方。
で、1年間の「面白い!」「好き!」の中から順位を付けているんだけど、「面白い」にもいろんな種類の「面白い」があって、それに順位を付けるというのも意味があるようなないような。
順不同でもいいんだけどそれじゃつまらないという思いもあり。

2019年も韓国文学をたくさん読んでどれもすばらしい作品だったんだけど、特にどれが好きだったかなと考えると、これかな。
韓国の首都圏の大学病院の周辺に住む51人の物語。どの人もいろんな問題を抱えながら、一生懸命日々を暮らしていて、ああ…同じだなぁと思う。人種とか国とかそういうの…私たちには関係ないよ。国同士いざこざがあってもそこに住んで暮らしている人たちはわれわれと同じ、優しくされれば嬉しいし蔑まれれば悲しい…同じ感情を持った人たち。
なによりも作者の視線が優しくてユーモアがあって好きだったなぁ。
図書館で借りて読んでいてすぐに「これすき!」となって昼休みに本屋さんに駆け込んで、同じ本を2冊抱えて帰ったのも、いい思い出(笑)。


2位 ブッチャーズ・クロッシング(ジョン・ウィリアムズ)

ブッチャーズ・クロッシング

ブッチャーズ・クロッシング

 

 ジョン・ウィリアムズはいい。
人間では全く太刀打ちできない自然の凄まじさ。希望や野望が絶望に変わる瞬間を静かなタッチで描きながら、それでも生きていかなければいけない人間の弱さと強さ。
ストーナー」とは全く違った物語だけれど、やぱり同じようにずどん!と心にくるものがあって、寡作だけどすごい作家だなぁと思う。

 

3位 掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

 

これはきっと今年のtwitter文学賞で1位間違いなしだろうと思うから私は安心して3位に。
作者自身がアル中のシングルマザーという破滅的な面もあるのだけれど、それ以上に直に心臓に触れてくるような…ここに書いてあるのは私のことだ!と言いたくなるような…独特の切実さがあって、たまらなく良かった。
翻訳家さんが惚れ込んで訳した本を読める幸せ。ありがとうありがとう。

 

4位 回復する人間 (ハン・ガン)

回復する人間 (エクス・リブリス)

回復する人間 (エクス・リブリス)

 

これもいい短編集だった。
自分が負った傷や打撃からうずくまり立ち直ることができない人たち。まわりから人がいなくなっていって独りぼっちになっていくのがリアルだけど、時間が薬。新たな痛みを感じたときが「回復」なのかもしれない。
ハン・ガンは以前「菜食主義者」を読んだけれど、それよりも好みだったなぁ。


5位 ある一生(ローベルト・ゼーターラー)

ある一生 (新潮クレスト・ブックス)

ある一生 (新潮クレスト・ブックス)

 

読むものに迷ったら新潮クレストを読め、は2019年も。
幼くして母を失い、母の義兄に育てられたエッガー。アルプスの厳しい自然と時代の荒波に揉まれ幸せとは程遠いように思える人生を送るが、エッガーが老人になってからいたる境地には驚きと感動があった。
読み終わって時間が経ってもその感動が薄れるどころか、じわじわと増していくような作品。


6位 何があってもおかしくない(エリザベス・ストラウト)

何があってもおかしくない

何があってもおかしくない

 

「私のなまえはルーシー・バートン」の続編のような作品だったが、断然こちらのほうが好きだった。
思い出すのも辛い過去や目を背けたくなるような現在を生きている人たちが、それでも時々立ち寄ったり差し伸べられる手に、ほんの一瞬でもほっとして肩の力が抜ける瞬間。わずかな希望に救われる想い。

エリザベス・ストラウトの連作短編はほんとにいいなぁ。

 

7位  なにかが首のまわりに(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)

なにかが首のまわりに (河出文庫)

なにかが首のまわりに (河出文庫)

 

風習や常識が違う国に住む人々の暮らしや感情の動きを読むことができるのが海外文学を読む楽しさなのかもしれない。
きっと私がこの先行くことはないであろう国。でもそこに暮らす人たちの感情の揺れは私となんら変わるところはない。
越えられない壁をみずみずしく描いた表題作、すばらしかったなぁ。

 

8位 娘について(キム・ヘジン)

娘について (となりの国のものがたり2)

娘について (となりの国のものがたり2)

 

普通の「善い人」として生きてきた母親が、娘の同性愛を恥ずかしく思い、育て方を間違ったのか教育を与えたことがかえって悪かったのかと悩む。
しかしそんな彼女自身、職場で上司の不興を買うような行動をとってしまい、職を失ってしまう。
普通ってなんなんだろう。世間の「常識」が本当に正しいことなんだろうか。
そんなことを考えながらもやっぱりどうしても娘には「普通の幸せ」をつかんでほしいと願わずにいられない。
じんわりと心にしみこんでくるような作品でとてもよかった。

 

9位 SMALL GREAT THINGS :小さくても偉大なこと(ジョディ・ピコー)

([ひ]4-1)SMALL GREAT THINGS 上: 小さくても偉大なこと (ポプラ文庫)

([ひ]4-1)SMALL GREAT THINGS 上: 小さくても偉大なこと (ポプラ文庫)

 

 一時期、出たら必ず読んでたジョディ・ピコー。久しぶりに読んだけど、相変わらずのリーダビリティ。でもとても重い内容だった。
白人が人種差別を描くのはとても難しいことなのだろうと思う。反発もあるだろうし批判も間逃れられない。でもそこにあえて挑んだ作者の気概を感じる。
「無知もまた特権」という言葉は重い。

 

10位 愛なんてセックスの書き間違い (ハーラン・エリスン)

愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)

愛なんてセックスの書き間違い (未来の文学)

 

なんていかしたタイトル。これは最後の二編の中に出てくる台詞。
暴力的な話が多かったけど切実な寂しさが際立って好きだったなぁ。
図書館で借りて読んだ本だったけど、神保町のブックフェスティバルの時に国書刊行会のワゴンで見つけて購入。なにかと目の敵にされる図書館だけど、私の場合、図書館で借りて読んでよかったから買うというパターンが多いので許してほしいー。

後は順不同で良かった本。

ショウコの微笑(チェ・ウニョン)

ショウコの微笑 (新しい韓国の文学)

ショウコの微笑 (新しい韓国の文学)

  • 作者:チェ ウニョン
  • 出版社/メーカー: クオン
  • 発売日: 2018/12/25
  • メディア: 単行本
 

 
外は夏(キム・エラン)

外は夏 (となりの国のものがたり3)

外は夏 (となりの国のものがたり3)

 

 

帰れない山(パオロ・コニェッティ) 

帰れない山 (新潮クレスト・ブックス)

帰れない山 (新潮クレスト・ブックス)

 

 
カササギ殺人事件(アンソニーホロヴィッツ)

カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)

 
カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

 

 
三つ編み(レティシア・コロンバニ)

三つ編み

三つ編み

 

 
波 (ソリーナ・デラニヤガラ)

波 (新潮クレスト・ブックス)

波 (新潮クレスト・ブックス)

 


マンハッタン・ビーチ(ジェニファー・イーガン)

 

マンハッタン・ビーチ

マンハッタン・ビーチ

 

 
パワー(ナオミ・オルダーマン)

パワー

パワー

 

 
ピュリティ(ジョナサン・フランゼン)

ピュリティ

ピュリティ

 

 
赤い髪の女(オルハン・パムク)

赤い髪の女

赤い髪の女

 

 

国内編。

1位 火宅の人(壇一雄) 

火宅の人(上) (新潮文庫)

火宅の人(上) (新潮文庫)

  • 作者:檀 一雄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/07/28
  • メディア: 文庫
 
火宅の人 (下) (新潮文庫)

火宅の人 (下) (新潮文庫)

  • 作者:檀 一雄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1981/07/28
  • メディア: 文庫
 

 2019年はなんといっても「火宅の人」!いつか読もうと思っていてようやく重い腰を上げて読んだんだけど、思っていたよりずっとずっと面白かった!勝手に毛嫌いして読んでいなかったことを後悔するけど、だからこそ今読んでこれだけ楽しめるんだからそれはそれでよかったのかも。

これがほぼ実話であるならば作者自身たいがいなクソ男だと思うけど、溢れんばかりの生命力と破滅的な生き方とそれらを俯瞰して見つめる冷徹さにクラクラした。
すばらしかった。


2位 檀(沢木耕太郎

檀 (新潮文庫)

檀 (新潮文庫)

  • 作者:沢木 耕太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/07/28
  • メディア: 文庫
 

 「火宅の人」を読んで、妻の側から見た物語も読んでみたいと思っていたら、あったのだ。妻ヨソ子さんが檀一雄が亡くなって17年経ってから檀一雄のことや結婚生活について語るという内容。

「火宅の人」ではかなりひどい言われようだった妻ヨソ子だけれど、怒りながらも作家として人間として壇一雄をそれでも尊敬し見放さなかったところに凄みを感じた。
天晴れとしか言いようがなかった。


3位 屋根屋(村田喜代子

屋根屋

屋根屋

 

読めば読むほど好きになる村田喜代子さん。
これはほんとにどこからどこまでも好みだった。

ふとした会話がきっかけで屋根屋職人と夢のなかの旅に出かけるようになる、というシチュエーションも最高だし、夢の中で待ち合わせして一緒に空のたびに出るというのがもうたまらない。
そして二人の分かりあえなさもロマンティックというかリアルというか。
あと、屋根屋の喋る九州弁がいだてんファンの私からすると萌えポイントだった。
ほんとにまだまだ自分好みの作家さんがいるんだなぁ、ということを知れた喜び。

 

4位 熱帯(森見登美彦

熱帯

熱帯

 

千一夜物語、物語の中の物語、繰り返しながら少しずつ変化していく世界…と、私の好きな要素がぎゅっと詰まった小説だった。

現実と幻想がらせん状になってぐるぐるぐるぐる繰り返す楽しさ。
モリミーを読むのは久しぶりだったけど、読んでる間ほんとにわくわくした。よかった!


5位 あちらにいる鬼(井上荒野)

あちらにいる鬼

あちらにいる鬼

 

井上光晴ドキュメンタリー映画を見たことがあったので、あれはいったいどういうことだったのか、また当事者やその家族はどう感じていたのか、そういう下世話な興味もあって読んだんだけど、恨みがましいところがひとつもなくすがすがしい作品ですばらしかった。
火の玉のような男を挟んだ女性二人の魅力的なこと。書くことと書かないこと。別れることと別れないこと。
これをモラルでどうこう言ったりするのはほんとにバカバカしい。天晴れじゃないか。こんな人生。

6位 飛族(村田喜代子)

飛族

飛族

 

国境沿いの島に住む二人の老女の魅力的なこと。
祈りとともにある暮らし。鳥踊りをする二人の姿がいつまでも目に焼きついている。
これから親もそうだし自分もどんどん年をとっていくけれど、年をとったからといって何もかもを諦めたくないし諦める必要もない。そんな希望も見えるところが素敵。

 

7位 夢見る帝国図書館中島京子

夢見る帝国図書館

夢見る帝国図書館

 

 物語の中で展開する「夢見る帝国図書館」という物語には、図書館を訪れる文豪や歴史に翻弄される図書館の歴史が語られるのだがこれがとても魅力的。
本好き、図書館好きにはたまらない内容だった。

8位 蜜蜂と遠雷(恩田陸)

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 

買った本はなかなか読まずそのうち文庫版も出てしまう、というのがいつものパターンなんだけど、これもまさにそれ。
読もう読もうと思っているうちに何年もたち、あれ?また最近話題になってるのはなぜ?と思ったら、映画化されていたのだった。

音楽を表現する言葉がこんなにも豊かであることに驚いた。
そして音楽への圧倒的な信頼と尊敬の念に満たされた物語だった。


9位 愛が嫌い(町屋良平)

愛が嫌い

愛が嫌い

 

読書メーターで絶賛している人がいたので手に取ってみた本だったんだけど、とてもよかった。
人間をフラットに全く別の視点から見ようとしているような…でもそれが奇をてらっていなくて…自分にも覚えがある部分…身につまされるところがたくさんあって、心地よさと居心地の悪さ、両方がある読後感。
面白いなぁ。若い人にもまだまだ知らない面白い作家さんがいるんだなぁ。


10位 体温(多田尋子)

体温

体温

  • 作者:多田 尋子
  • 出版社/メーカー: 書肆汽水域
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: 単行本
 

これはちょっと自分が貼り付けておいてなんなんだけど、実際に読んだのはこの本じゃなくて講談社で出ていた方で、収められている短編も共通するのは「体温」だけなので、書影に偽りあり、なのだけれど。ものすごくよかったので。

男女の描き方が今ではちょっと「古い」と言われてしまいそうな気もするんだけど、ここに描かれている女性はみな凛としていて強い。
とても揺さぶられたし魅力を感じたので、この書影に出ている本はすぐに買って読もうと思う。


後は順不同で良かった本。

 

私小説―from left to right(水村美苗

私小説―from left to right (ちくま文庫)

私小説―from left to right (ちくま文庫)

 

 

居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)(東畑開人)

居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)

居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)

 

ある男(平野啓一郎

ある男

ある男

 

 

不意撃ち(辻原登)

不意撃ち

不意撃ち

 

 

 とめどなく囁く(桐野夏生

とめどなく囁く

とめどなく囁く

 

 

圓朝(奥山景布子)

圓朝

圓朝

 

 

文豪お墓まいり記(山崎ナオコーラ)

文豪お墓まいり記

文豪お墓まいり記

 

 

居た場所(高山羽根子)

居た場所

居た場所

 

 

死にがいを求めて生きているの(朝井リョウ

死にがいを求めて生きているの

死にがいを求めて生きているの

 

 昔より読むスピードは遅くなってきているし、なかなか頭に入らない、なんてこともあるけど、やっぱり本はいい。今年もたくさん読めますように。



 


 

 

殺意・鬼哭

 

殺意・鬼哭(新装版) (双葉文庫)

殺意・鬼哭(新装版) (双葉文庫)

 

 ★★★★

殺人事件の被害者と加害者。双方から事件について語られる、異色のミステリー。
「エンターテインメントの域をはるかに越え出た力業である」と評され、事件の当事者の心理に深く食い込み、
それらを圧倒的な描写力で表出させる著者の真骨頂が発揮された傑作。

「殺意」は、中学生の頃の家庭教師でその後長いこと憧れの先輩、それから大人になってからは「親友」として付き合ってきた的場を殺した真垣の独白。
「鬼哭」は殺された的場の最期の3分間の精神世界。

「殺意」を読んでいて、真垣がなぜ的場から離れなかったのか…逃げようはいくらでもあっただろうにと思ったのだが、途中から真垣自身の異常性のようなものも垣間見えてきてぞぞぞ…。
そして「鬼哭」を読むと的場も可愛そうな人間に見えてくる。

誰かをはけ口にしてはいけないし、はけ口にされていると思ったら離れたほうがいい。
真垣が的場から離れなかったのは自分の中の殺意を熟成させるためだったのかもしれないと思うと、寒気がする。

夜の九時落語

12/28(土)、UNA galleryで行われた「夜の九時落語」に行ってきた。


・さん助師匠「御慶」


今年はいったい何回さん助師匠を見に行っただろう。
いいさん助もあれば悪いさん助もあった(笑)。

めでたく「ぎょけいっ!」で落語納め。「永日ーーー!」

末廣亭12月下席昼の部

12/28(土)、末廣亭12月下席昼の部に行ってきた。

 

・志ん弥「浮世床
・白酒「権助魚」
・美智・美登 マジック
小満ん「宮戸川
~仲入り~
・ぴっかり☆「宗論」
笑組 漫才
・才賀「カラオケ刑務所」
・小里ん「にらみ返し」
仙三郎社中 太神楽
・はん治「妻の旅行」


途中から。
満員でぎゅうぎゅう。桟敷席の真ん中あたりで。
いかにも寄席らしくて楽しかった~。

今宵、ちゃんとやる二人

12/27(金)、江戸東京博物館で行われた「今宵、ちゃんとやる二人」に行ってきた。

・り助「桃太郎」
・小燕枝「親子酒」
・アサダ二世 マジック
・小燕枝「二番煎じ」
~仲入り~
・アサダニセモノ&アサダ二世 マジック
・小燕枝「芝浜」

り助さん「桃太郎」
お姉さんのお化粧の小噺で爆笑。お姉さん…迫力ある(笑)。
そして聞き飽きた「桃太郎」がひっくり返るほど面白くて大笑い。
「あるところに」
「あるところってどこ?住所は?」
「住所はねぇ」
「そんなわけないでしょ。どこにでも番地はあるよ。そうじゃなきゃ郵便も届かないよ」
「うるせぇなぁ。…あるところは…調布だ」


「じじいとばばぁが二人で川へ洗濯へ行きました」
「え?二人で川に?」
「そうだよ。仲がいいんだよ、このじじいとばばぁは」
「おじいさんは山…山でしょ?」
「そうだよ。山だよ。早く教えろ。黙って聞け!」

なんか笑わせてやろうとかお客の反応は?とかいうのを気にするような感じは全くないのに全然普通じゃない「桃太郎」で度肝を抜かれた。笑った笑った。


小燕枝師匠「親子酒」
おかみさんにお酒を勧めて飲ませちゃう、って初めて見た。しかもおかみさんが結構いい飲みっぷり。まくらで話していた小燕枝師匠のおかみさんを思い出して、ふふふっと笑いが。
飲みながら旦那があれこれ語るのがなんか楽しい。自由な「親子酒」。楽しい!


アサダ二世先生 マジック
上手なマジックをふわっとやるのと、わざとできないところを見せて笑いを誘うののバランスが絶妙だなぁ。
かっこよかった。


小燕枝師匠「二番煎じ」
夜回りの場面の芸の多彩さにうっとり。
浪曲もおかしかったなぁ。
そして宴会の場面はお酒おいしそう、しし鍋おいしそう、見ているこちらも徐々に体が温まってくる感じ。
楽しいーーー。
でも高座の最中に、後ろの方で子どもが出たり入ったりおしゃべりしたり、途中で携帯が鳴って全然止めてくれなかったのが、ちょっと残念だったな。


アサダニセモノ師匠&アサダ二世先生 マジック
小燕枝師匠はマジックを相当やりこんでる感があって笑ってしまった。芸がきれい!
そして途中で本人登場っぽく出てきたアサダ二世先生とのやりとりもおかしかった。


小燕枝師匠「芝浜」
この「芝浜」にはびっくりしたなぁ、もう。でもいいなぁ。すごくいいなぁ。なんか「芝浜」っていうともうあれでしょ、みたいな「お約束」をころっと裏切る遊び心がたまらない。最高だったー。
そして仲入りの時に携帯とおしゃべりの注意があったけど、鳴らしたりおしゃべりする人ってそもそもこういう注意を聞かないんだよね…そこは残念だったな。寄席ならまだあきらめもつくけど、せっかくのこんなにいい「芝浜」で…ホールの会で…うーん。

それにしても小燕枝師匠がたっぷり三席で、アサダ二世先生もマジックたっぷりって…ちゃんとやりすぎだったのでは?という凄い会だった。

体温

 

体温

体温

  • 作者:多田 尋子
  • 出版社/メーカー: 書肆汽水域
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

 15歳のとき、両親が本当の両親ではないと知らされた素子。兄の藤一とも血が繋がっていないと知ったそのときから、素子は藤一に恋心を抱くようになる(「秘密」)。
8年前に夫を亡くした率子は、夫の仕事仲間だった小山と再会し関係を深める。率子の自宅の客間を間借りしている女子大生の清子とあけみ、そして娘の百合、幼馴染の光子。賑やかな生活を送る中で、小山との関係はどのような進展を見せるのか―(「体温」)。
心地好い温かさに包まれていたはずが、いつのまにか孤独や哀しさの方に針が振れ、心に引っ掻き傷を残す。歴代最多の六度芥川賞候補にあがった著者の、成就しない大人の恋愛小説集を復刊。
「体温」「秘密」「単身者たち」の3作品を収録。

 私が読んだのは講談社の「体温」で、収められていたのは「やさしい男」、「焚火」、「オンドルのある家」「体温」。絶版になっていて書影もなかった。

とても面白かった。それぞれの物語に出てくる男性が独特で「こういう時代もあったのね」では済まされない何かがあるように思う。
「男とはこうあるべし」という社会的な圧力のようなものが確かに存在していて、それに守られたり追い詰められたりしながらも、「男」として生きようしている。

そういう男性を許すでもなく受け入れる女性がまた独特で、彼女たちの感じ方や行動は明らかに自分とは異質なものなんだけど、そこに強さも弱さも透けて見えてなんだか揺さぶられる。

こういう男女の描き方は今の時代では「古い」と言われてしまうのかもしれないけど、でもその実ここに描かれてる女性はみな凛としていて強い。「自立」って経済的な自立だけじゃないんだよな。

何かとても生々しいものを見た気がするけど、それが全然不愉快でないというか、人間って面白いなぁと思う。他の作品も読んでみたい。
というか、この書影にある「体温」買って読まなきゃ。

 

エシュティ・コルネール もう一人の私

 

エシュティ・コルネール もう一人の私

エシュティ・コルネール もう一人の私

 

 ★★★★

一九一四年、第一次世界大戦。一九一八年秋、社会民主政権誕生。一九一九年春、共産主義革命。一〇〇日余で崩壊、王政復古と国土分断。そして赤色テロ、白色テロ。この激動の時代…!作家の役割は、民衆に勇気と力を与え、権力と闘い、人々を導くことであるという伝統が、ハンガリーに生まれた。一九三三年、コストラーニが大批判に晒されながら示した最後の傑作長篇。 

独特のユーモア…ニヒリズム…不条理が香る作品群。連作短編とも違う、断片的な物語の集まり。
副題にもあるようにエシュティは作者のもう一つの顔。なれなかった自分、なりたかった自分のように感じた。

極端で気まぐれで時に残酷だけれども純粋で子どものまま大人になってしまったようなエシュティの視点で語られる物語と彼と対峙する人(作者?)の視点で語られる物語が入り混じっている。エシュティが旅で出会った人たちや出来事、自分の敬愛する人物について語る物語が面白かった。

今読むとそれほど不道徳にも思わないのだけれど、若いころから詩人として地位を確立していた作者が、自分に求められる社会的な立ち位置をひっくり返す覚悟を持って書いた作品のようだ。

読書メーターにもAmazonにもまだレビューなし。
私はどうしてこの本を手に取ったのか、記憶がないんだけど…表紙のインパクトはなかなかのもの。

 

某

 

 ★★★★★

名前も記憶もお金も持たない某は、丹羽ハルカ(16歳)に擬態することに決めた。変遷し続ける“誰でもない者”はついに仲間に出会う―。愛と未来をめぐる、破格の最新長編。 

人間に限りなく近いけど人間ではない、「誰でもない者」。
過去の記憶が一切ない状態で目覚め、人間の誰かになって暮らししばらくすると「変化」して別の誰かになる。
空っぽだったのが徐々に経験や記憶を重ね、誰かのことを気にかけたり大事に思ったりするようになり「死」を意識するようになる。

人間を人間たらしめているものはなんなんだろう。
幸せを感じると途端に失うことが怖くなる。生きることを意識すると死が怖くなる。
でも死があるからこそ生が輝くという面もあるしなぁ。

いろいろ考えさせられる作品だったが、ラスト美しくて好き。

柳家さん喬一門会 年忘れ大演芸会

12/22(日)、かめありリリオホールで行われた「柳家さん喬一門会 年忘れ大演芸会」に行ってきた。

 

・落語体操~第2バージョン~ 門弟一同
・左ん坊「穴子でからぬけ」
・小んぶ「初音の鼓」
・喬之助「出来心」
・さん助「かつぎや」
・小傳次「幇間腹
・小平太・小太郎・やなぎ「茶番(象)」
・左龍「つぼ算」
~仲入り~
・真打昇進披露口上
(小平太、さん助、小傳次、喬志郎、小志ん、さん喬、喬之助、左龍、喬太郎
・小太郎「猫と金魚」
・小志ん「松竹梅」
・ダーク広和 マジック
・さん喬「抜け雀」
~仲入り~
・やなぎ「先生の話」
・喬志郎「壁金」
・小平太「松曳き」
・さん喬「寄席の踊り」
喬太郎「柚子」

 

6時間の落語耐久レース(笑)。
入り口に「今日は大変長時間の公演となっております」と注意書きがしてあるのが笑える。
長かったしすぐにメモしなかったので細かいことは忘却の彼方。(たいていその日のうちか次の日に覚えている断片を下書きしておいて、後から思い出しながら書くことが多い)
印象に残ったことを箇条書きで。


・落語体操、たまたま座った席がさん助師匠と小んぶさんの近くでラッキー。
うつろな目で落語体操をする二人(ペア)が見られて最高だった。
「疝気の虫」とか「母恋いくらげ」とかレアな体操が多いのも素敵だった。
・さん助師匠はおめでたそうでおめでたくない「かつぎや」。こういう噺ってどうなんすかね(もやさま風に)。
・真打披露口上は司会をさん喬師匠がつとめるという異例の口上。
・まぁみなさん師匠に遠慮がないというか毒舌爆発というか…。これを許すさん喬師匠ってすごいな、というか。
・いやきっとそれはリスペクトしてるから言えるんだろうと思うし、逆に普段は全然言えないからこういう時に…っていうのもあるんだろうけど、びびるわー。
・笑ったのが喬志郎師匠を紹介するときにさん喬師匠が「こいつはほんとにひどいやつなんです」と言って語ったエピソード。「松竹梅」を稽古した時に、梅さんたち三人に稽古をつける前の場面もたっぷり教えたのに、上げの稽古の時にそこをまるでやらなかった喬志郎師匠。「お前なんであそこをやらないんだ?教えただろ?」と聞くと「あー、あそこは無駄だと思ったもんですから」。「無駄って!!!人がせっかく丁寧に教えたのに!!」。…笑った…。
・第3部のさん喬師匠の踊り。最初はしっとり踊っていたのに最後になって「袈裟シャワーをあびていて思いついたことがあったもんですから…ちょっと着替えてきますのでしばしお待ちを」。
なにかなぁと思っていたら、なんとポストの被り物をして登場!ええええ?これほんとにさん喬師匠が入ってるの?しかも師匠のアイデア
すごいサービス精神と弾け方にびっくり。さすが…この一門を率いる師匠だわ…。素敵。

喬太郎師匠の「柚子」、よかったーーー。泣いたー。


長かったけど長さを感じなかった。すごいわ、この一門は。ほんと。楽しい。

さん助燕弥ふたり會

12/21(土)、お江戸日本橋亭で行われた「さん助燕弥ふたり會」に行ってきた。


・市坊「寄合酒」
・燕弥「猫の皿」
・さん助「うどんや」
~仲入り~
・さん助「煙草好き」
・燕弥「火事息子」


燕弥師匠「猫の皿」
最近引っ越しをしたという燕弥師匠。
わりとよく引っ越しをする方で自分は引っ越しには慣れているという自負があったんだけど、今の家には10年いてその間に子どもも生まれて荷物も増えて、思っていた以上に大変だった。
噺家っていうのはそもそも荷物が多い。
着物、稽古をつけてもらったときの録音(テープ、MDなど)、資料類、手ぬぐい。
稽古のテープなんかはどうしても捨てられない。だって自分一人のためだけにやってくださってるって思うともう、ね…。
テープからMDに変わったとき、巻き戻すことができないもんだから、喜多八師匠に稽古をつけてもらった時に「え?テープじゃねぇから巻き戻せねぇ?じゃ最初からやらなきゃだめじゃねぇか。あーあ…」って…その声もしっかり録音されてるんですよ。もう…お宝じゃないですか?嬉しくて。「だれる喜多八師匠」って題名付けて大事に保存。
あと、人から見たらガラクタでしかないけど自分にとったらお宝っていうものが結構たくさんあって。
例えば旅の仕事で東北に行った時に師匠たちとわんこそばに行って、100杯以上食べるとお店から鈴の付いた札をもらえて、それ自体は別にどうでもいいんですけど、そこに雲助師匠が「さん太さん。がんばりました」って書いてくださってて…。またその字がかわいいんだ!たまらないっしょ!

…ああ、もうなんて素敵な話なんだ。
燕弥師匠ってまくらでこういう話を聞かせてくれるからほんとにたまらない。
落語ファンの心もいまだに持っていて、しかもさん助師匠のように話下手じゃない(笑)!
そんなまくらから「猫の皿」。
燕弥師匠の「猫の皿」は、店の主人がかなりの確信犯。かなりのハイテンションなのでさん助師匠が乗り移ったか?と心配に…んなわけない(笑)。


さん助師匠「うどん屋
さん助師匠の酔っ払いは絡み方が他の人と違う。同じ話がぐるぐる回るところは同じなんだけど、酔っ払いが長唄の歌詞にいちいち文句をつける。「おらぁこれおかしいと思うんだ!」。
ああ、めんどくさい酔っ払い…いるいるこういうやつ。
そしてうどんを勧められて食べる。唐辛子をぜーんぶ入れて。
へんてこな「うどん屋」だったけど、なんか面白かった。


さん助師匠「煙草好き」
この間、駒込で聴いた「煙草好き」と少しずつ変わっていた。
面白かったのはまくらで歌舞伎の「娘道成寺」の説明をしたこと。
煙草好きがタバコ好きを追いかけて寺に走り逃げるところで、まくらの「娘道成寺」が浮かんできて、そのギャップとばかばかしさに笑ったー。
こういうところに、さん助師匠のセンスを感じるなぁ。おもしろーーい。


燕弥師匠「火事息子」
ネタ出しされた時から絶対にいいだろうと思っていたけど、ほんとによかった、燕弥師匠の「火事息子」。
屋根の上で番頭に声をかけるところ。勘当した父親と対面するところ。
ちょっと目を伏せただけでものすごいかっこよくてきれいでぞくぞくっ。
多く語らなくても申し訳なさとそれでも火消しになりたかった気持ちが伝わってくる。

やっぱり燕弥師匠には「いい男」が似合うなぁ。すごく素敵な「火事息子」だった。

第381回 圓橘の会

12/21(土)、深川東京モダン館で行われた「第381回 圓橘の会」に行ってきた。
 
・萬丸「王子の狐」
・圓橘「御慶」
~仲入り~
・圓橘「大つごもり」
 
圓橘師匠「御慶」
年末ジャンボ宝くじ1等が3億円の頃は奥さんと一緒に買っていた。
「当たったらちゃんと言えよ」なんてお互いにけん制しあったりしていたけど、あまりに当たらないので諦めた。
そんなまくらから「御慶」。
おかみさんがきついのがすごくおかしい。
「いやだよっ!」「そんなに富が好きなら富と一緒になればいい!あたしゃもう別れるよ!」。
夢から自分が割り出した番号がすでに売れてしまっていたと分かった時、「誰が買ったんだ?」と聞いて「ああ、(家主)たろべえのところの(店子)じろべえか」とがっかりするけどわりとあっさり諦める。
帰り道「あの金はじろべえにくれてやらぁ」と言いながらも「ああ、これで女房は出て行っちゃうだろうなぁ」と奥さんに未練が残っているのがおかしい。
易者に声をかけられて「富くじのことで」と言うと、易者に「ああ、富はいけません。そういうのはやらない方がいい。まじめに働きなさい。それに限る」と言われ、「そう言うなよぉ」と言うのがなんかかわいらしい。
富が当たってからも「おっかぁ!!」とおかみさんまっしぐらに帰る面白さ。
 
大家さんのところにお金を持って行ってからはひたすら陽気で楽しい。
「ぎょけい!!」の声の高さと「上がれって言ってくれよ。言わないと先に進まないよ」と求めるのが楽しかったー。
 
圓橘師匠「大つごもり」
これを初めて高座にかけたのは20年ほど前のこと。
その時には70代ぐらいの一葉ニスト?の女性が何名か見に来ていて、ホール宛てにお叱りの手紙を送ってきたことがありました。「あなたのお峰には深みがない」とかなんとか…。
ものすごい「いい手」でした。
一葉は落語を見に行ったりすることもあったのかなかったのか。
短い物語だけど漢文調の硬い文章で…若いころはそうでもなかったですけど、今回読み直してみて…かなり苦労しました。
 
そんなまくらから「大つごもり」。
口入れやのお金ばあさんが奉公先を探しに来たお店に向かって、とあるお屋敷での奉公を世話する。
ここはお子さんが4人いるけれど長男はもう家を出ているし家にいる3人ももう大きくなっているからそんなに世話が大変じゃない。
ここの奥様は非常なケチで口うるさい人だけどうまくやって可愛がられればなんとかなるから頑張りなさい。
御主人は鷹揚な方だからお小遣いは御主人にねだりなさい。
とにかく辛抱するんですよ。でも辛かったら別の奉公先を世話することもできるからここに来なさい。
送り出されたお峰が行ったお屋敷は奥様がケチで結構きつい人だったけれど、お峰は文句ひとつ言わずに働いた。
というのは、小さいころに父を亡くしその後母も病気で亡くし、叔父の家に引き取られた、という苦労人。
叔父の家には三之助という8歳離れた子どもがいたが、お峰はその子を自分の弟のようにかわいがっていた。

ある日珍しく奥様が奉公人も連れて芝居見物に行こうと言い出したので、お峰は病気をした叔父が心配なので見舞いに行きたいと申し出ると、奥様はそれを許してくれた。
久しぶりに行ってみると叔父は患って床につき、暮れに高利貸から借りた金を返せないとこの長屋にも住んでいられなくなる、と言う。
どうかお屋敷の奥様にお願いしてお金を借りてきてほしいと言われたお峰は「承知しました」と言う。
奥様の機嫌のよさそうな時を見計らって話をすると「わかりました」と奥様。

みそかの夜、ほろ酔いで家にやってきたのはこの家の長男。長男は先妻の子なのだが、財産は今の奥様の子どもたちにやると言われていて、それが面白くない長男はしょっちゅうこの家にやってきては金をせびる。
この日も年の瀬に金をせびるつもりでやってきて居間のコタツで高いびき。
そこへ戻ってきた奥様。長男の姿を見るととたんに機嫌が悪くなる。
そこへお峰が「この間お願いしたお金を…」と申し出たものだから「誰が貸すと言った?私はそういう話なのか、わかりました、とそういっただけだ」と撥ねつける。
しばらくするとここの家作の大家が店賃を持ってくる。それを手文庫に入れるようにと申しつけられたお峰。言われた通り手文庫に金を入れる。
しばらくすると弟の三之助がお金を取りにやってくる。追い詰められたお峰は、いけないことだとは知りながら先ほど手文庫に入れた金に手を出してしまい…。
 
…ドキドキしながら聞いていて、最後のところで涙涙…。
くーーーー。こういう「落語」が聴けるってほんとに幸せ。圓橘師匠ってほんとに素敵だな…。
しかも終わった後にまた江戸時代の法律に詳しい「先生」を呼んで、江戸から明治の初めの頃の「盗み」の罪の重さについての解説。
それを聞いて、よけいにこの物語の感動がじわじわと…。
よかったー。来年もまたできるだけ通いたい。圓橘師匠の会。